HIVの検査―リスクが高い行動があれば[USPSTF2019]

HIV

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内科医の3Dナカノです。今日はUSPSTFから2019年6月に推奨が出た、リスクが高い行動があればHIVの検査をしましょうというお話です

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目次

本日の結論:

リスクがあれば、保健所や自治体でやっている無料のHIVの検査を検討しましょう
リスクとは:男性と性交渉する男性(MSM)・静注薬物乱用・他の性行為関連感染症(STI)に罹患・不特定多数とコンドームをしない性交渉歴お金や薬物のために性交渉をすることなど
HIV感染症は早期発見・しっかり治療すれば大過なく健康に過ごせる可能性が高い病気になりました

まずは日本とアメリカでの10万人あたりのHIV感染者数の頻度を見てみましょう

HIV感染者数人/10万人
日本27 (2021年)
米国364 (2019年)
日本とアメリカのHIV感染者数の比較

人口あたりの感染者数が桁1つ以上違うので別物と言っていいでしょう
というわけで今回の推奨は参考意見でいいと思います
結論のもとになったUSPSTF推奨:

すべての妊婦と(推奨度A)、

15~65歳の青年・成人で(推奨度A)、

HIV感染症のスクリーニング検査をおこなう

USPSTF

言葉の解説をします

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)とは、

1980年代にAIDSを引き起こすウイルスとして発見されました。ここ40年くらいの研究費の集中と医学の進歩により、不治の病から健康寿命がほぼ健康な人と変わらなくなった病気です。HIVの発見は2008年のノーベル医学生理学賞の授与の対象になりました

AIDS(エイズ)とは、

  • 後天性免疫不全症候群のことで、
  • (生まれつきでなく)HIV感染により免疫系(ヘルパーT細胞)が機能しなくなって、
  • 免疫系が健康なら発症しないタイプの感染症・がんを発病した状態

です
通常HIV感染症したことに気づかれなかったか、治療がうまくいかなかった時期を数年~10年経た後に、AIDSを発症します。免疫系(ヘルパーT細胞)が機能しなくなって、指標疾患とよばれる23種類の感染症やがんのいずれかを発症した状態をAIDSと呼びます。HIVに感染しても早期に発見して正しく治療すれば、AIDSを発症する可能性はかなり減らせます
よく混同されますが、「HIV感染症=AIDS」ではないので、お気をつけください

HIVの感染経路は、

HIVの感染経路は、

  • HIV感染者との性交渉
  • HIVに汚染された血液への曝露(輸血・静注薬物使用)
  • 周産期に母子感染

などがあります

HIV感染症のリスクは、

HIV感染症のリスクは、

  • 男性と性交渉する男性(MSM)
  • 静注薬物乱用
  • 2人以上のひととコンドームをしない性交渉歴
  • お金や薬物のために性交渉をすること
  • 性行為関連感染症(STI)の罹患・パートナーのSTI
  • HIV感染症のパートナー
  • HIV感染症・STIの検査を求めるひと

などが挙げられます
男性と性交渉する男性(MSM)は必ずしもゲイやバイセクシュアルではなく、MSMを純粋に収入源としている場合も含まれます

HIVのスクリーニング検査は、

HIVのスクリーニング検査は、

  • 保健所や自治体の検査施設で無料・匿名でうけることができます
  • HIV-1/2抗体やp24抗原

という項目を検査することになります。
HIV-1/2抗体は陽性になるのに感染後3ヶ月程度かかる場合があります。一方、p24抗原は感染後1-2週間で陽性になるけれども、一定期間が経つと弱陽性になるという性質があります。スクリーニング検査が陽性の場合確認検査を行ってHIV感染症の確定をすることになります。スクリーニングの検査の頻度はご本人のリスク次第で、まだ明確なUSPSTFの推奨はありません

HIV感染症の治療は

  • ARTアート(antiretroviral therapy・抗レトロウイルス治療)と呼ばれていて、
  • 通常2-3種類の違う働き方をする薬を併用
  • 現在は1日1回の内服でよいものが主流
  • 内服を定期的にしないと耐性ウイルスができる

という特徴があります。
ARTによる治療によってAIDSへの進展AIDS関連の様々な病気(感染症・がんなど)・死亡率を抑制することができます
昔は1日3回だったり、アルコールに溶かされたり、冷蔵しないといけない薬もあったので壮絶に不便でした。時代は変わり便利になりました。ただ、薬の飲み合わせは今でも複雑怪奇なので、ARTで治療中の場合はHIV診療に詳しい先生・薬剤師によるチェックが必要です
一方で抗菌薬と一緒で、内服が不規則になると耐性菌ならぬ耐性ウイルスの出現の恐れが出ます。酔いつぶれたり二日酔いで薬を飲み忘れるなどがないよう、ある程度規則的な生活を送る必要があります。内服コンプライアンスの確認と動機付けの意味もあって、HIV外来ではHIVコピー数(ウイルス量)やヘルパーT細胞数(HIVの感染対象細胞数)を定期的にチェックしています

HIV感染症の完治(治癒)は、

  • 現状ではARTが不要になるケースは極めて稀
  • HIVが感染細胞のゲノムに取り込まれているため

です
現状ではARTなしでHIVが検出されない例は極めて稀で、症例報告モノの珍しさです。主な理由は、HIV自体を薬で徹底排除してもヘルパーT細胞のゲノムに取り込まれていることです。ARTをやめるとHIVが感染細胞(ヘルパーT細胞)から作られてきてしまうので、現状ではご本人がお元気な間はARTを継続する必要があります
ARTで治療がうまくいっている間は血中のHIV量が検出感度以下になるのが通常なので、ひとにうつしてしまう可能性は非常に低いと考えられています。ナカノはHIV感染者に対する差別が世の中からなくなることを願っています

まとめ:

さて、HIV感染症に関する解説をしました。
HIV感染症は現在では治療が可能な病気になりました。正しく内服ができればAIDSを発症したり、寿命が縮んだり、周りの人を感染させてしまうリスクがかなり減らせます。もちろん感染するような行動を避けるのが一番です。ただ、感染したかもしれないと思ったら、早いうちに検査を受けてしっかり治療を開始してください。正しい知識で正しくHIVを恐れて、健康長寿にお役立てください!

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この記事を書いた人

卒後15〜20年の病院内科医のナカノです。資格は医師・総合内科専門医・リウマチ専門医・アレルギー専門医(内科)・博士(医学)です。現在はアメリカのワシントンDC郊外の研究所で研究者として働いてます。
暮らしに役立つ知恵や皆さんの健康に寄与する情報を発信していければと考えています。

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