今日はフローサイトメトリーでのボルテージの決め方を、詳細に解説します。原則、臨床検査技師の方・血液内科医師・医生物学的な研究をする研究者を、想定聴衆として書きます。皆様に役に立つ内容ではないものの、日本語での情報は不十分だと感じてます。今後の日本発のサイトメトリーの臨床・研究のスタンダードが上がることを祈念しながら、医学者ナカノが解説していきます
本日の結論:
- FSc・SScのボルテージは小さい値にしてから漸増して細胞集団を同定します
- その次はThresholdを決めますが、原点付近のデブリをある程度残します
- 蛍光チャンネルのボルテージを決める方法は3種類ありますが、
- 重染色の検体で、全部のチャンネルが検出範囲内に収まることが重要です
- Compensation controlが検出範囲外に出る場合は染色条件を再検討します
言葉の解説をします
FSc・SScのボルテージの決め方は、
- 未染色(Unstained)のサンプルをセットして、
- ボルテージに50や100などの小さい値を入れて、全イベントを検出限界以下にして、
- 徐々にボルテージを上げて細胞集団を同定するのがオススメです
最初に大きい値から始めるとデブリ(Debris)なのか細胞なのかがわかりにくい場合があります。また、コンペンセーションなどでビーズを使用する場合に、ここで見え方を確認したほうがよいです。Thresholdの設定もここでついでにしたほうがいいです
Thresholdとは、
- FSc(とSSc)の検出下限を決める数値で、
- 主に原点付近にあるデブリを除外する目的で設定します
デブリのせいでデータが巨大になったり、コンピューターが高負荷になるのを避けることができます。ただ逆に、高すぎるThresholdを設定すると本来解析すべきデータを捨ててしまい、解析できなくなる可能性があります。一般的にはデブリがメジャーポピュレーションにならない程度にしつつ、はっきりデブリが見える位の状態が好まれています
各蛍光チャンネルのボルテージの決め方は、
- CS&Tの初期値をそのまま使う
- rSD (robust standard deviation)が広がり始める点を使う
- 2.5 * SDenを使う
の3通りがあります
いずれの方法を使用する場合でも、 重染色(Full stained)のサンプルで、 全部のチャンネルが検出範囲に収まっていることを確認することがとても大切です。この場合の検出範囲とは、普通のBDのサイトメーター(最大値2*105)なら105程度、Auroraなど検出限界が大きめのサイトメーター(最大値4*106)なら106程度までのことを指します
Compensation controlで検出範囲外に出てしまった場合には、Compensation controlの染色条件を変えることで対応されるべきです。具体的には添加する抗体の量を減らすか、Incubation volumeを増やすことになります
CS&Tの初期値をそのまま使うとは、
- サイトメーターに設定されたボルテージの初期値を用いる方法です
- CS&TとはCytometer setup and trackingの略です
CS&Tを実施すると毎回蛍光の中央値が同じ値になるように、微妙にボルテージ値の調整がおこなわれます。初期値のまま検査・実験を開始するので簡単ですが、高すぎる値と低すぎる値を採用してしまう可能性があります。重染色(Full stained)のサンプルが、検出範囲に収まっていることを確認するのが大切です
rSD (robust standard deviation)が広がり始める点を使うとは、
- 未染色(Unstained)の細胞を使用して、
- 全部のチャンネルでボルテージをタイトレーションする方法です
ボルテージとrSDをプロットして採用するボルテージを決定します
使用するチャンネルのボルテージの値を100-700位の間で全部変更して、50000event程測定します。測定後に各チャンネルの蛍光値のrSDを出力します。x軸にボルテージ・y軸にrSDをプロットして、rSDが増え始めるボルテージを採用します
2.5 * SDenを使うとは、
- Baseline CS&Tで出力されるSDenを使う方法です
- SDen: Electronic Noise robust standard deviation
- SDenの2.5倍の値と、未染色検体のrSDが合致するボルテージを採用します
若干手間がかかりますが、Baseline CS&Tで出力されるSDenの2.5倍をまず計算します。前項でタイトレーションしたのと同じ方法でボルテージとrSDの対応をエクセルに出力して、SDenの2.5倍になっているボルテージを採用します。ボルテージとrSDのみを使用してボルテージを決める方法よりもボルテージは高くなる傾向がありますが、dimな細胞の解像能が改善する可能性があります
3つの方法を比較すると、
- 通常rSDが広がり始める点のほうが、2.5 * SDen より低いボルテージになります
- CS&Tの初期値は高い方にも低い方にもぶれが大きいので、若干使いにくいかもしれません
3DナカノはrSDが広がり始める点を通常採用しています。重染色のサンプルで検出範囲外にでないことを目視で確認して、全部の検体の測定をしています
まとめ:
さて、フローサイトメトリーでボルテージを決める方法をお話しましたがいかがだったでしょうか。3Dナカノがサイトメトリーの実験を始めた頃には、陰性細が102で陽性細胞が105付近に来るように適宜調節しましょうと言われていました。実際にはそんなにうまくいかなくて、もやもやした気持ちで実験していました。他にもPeak 2 methodという方法などもありますが、実際に試したことがないので紹介しませんでした。読んでも不明な点は質問をお寄せください。自信を持って正しい結果を出せるように頑張っていきましょう!
コメント