蛍光抗体のTitrationをするべき2つの理由 [FACS]

Staining Index

フローサイトメトリーでの蛍光抗体のTitrationの仕方を詳しく解説します。原則、臨床検査技師の方・血液内科医師・医生物学的な研究をする研究者を、想定聴衆として書きます。皆様に役に立つ内容ではないものの、日本語での情報は不十分だと感じてます。今後の日本発のサイトメトリーの臨床・研究のスタンダードが上がることを祈念しながら、医学者ナカノが解説していきます

目次

本日の結論:

  • フローサイトメトリーでは蛍光抗体のTitrationをオススメします
  • 試薬(≒お金)が節約できて、データの雑音が減らせる可能性があるからです
  • 単染色の希釈系サンプルでStaining index (SI・染色指数)を計算します
  • SIが最大の染色条件で単染色・重染色をともにすることをオススメします

言葉の解説をします

各種抗体のTitrationとは、

  • 使う抗体の最適な量を決める方法です
  • 使用する試薬を減らせる場合があるので、検査・実験コストが削減できる可能性があります
  • シグナル・ノイズの分解が改善する場合があるので、データの雑音が減る可能性があります
  • 欠点は初回に手間がかかることです(例えば10試薬を検証する場合には50検体)

この場合のシグナル・ノイズとは、

  • シグナルとは、蛍光抗体で陽性細胞が染色される程度をあらわします
  • 抗体を増やすと蛍光強度(の中央値)が大きくなります
  • ノイズとは、蛍光抗体で陰性細胞が染色される程度をあらわします
  • 抗体を増やすと陰性細胞に非特異的に蛍光色素が付着して、
  • 蛍光特性のばらつき(分散)が大きくなります

陽性細胞の蛍光強度が大きくなることと引き換えに、いたずらに陰性細胞に蛍光抗体が付着する状況は、陽性細胞が判定しづらくなるばかりではありません。ほかのチャンネルへの漏れこみや蛍光強度のインバランスにつながるため、避けることをオススメします

ある抗体を等倍・8倍・64倍希釈した例
等倍だと非特異的染色が、64倍だとシグナルが犠牲になっています

フローサイトメトリー用の蛍光抗体の値段は、

  • 100回分で2~5万円程と高額です
  • 使用量を減らせると大きな節約に繋がります

抗体によってまちまちですが、1/16の量で十分有効に染色できる場合も珍しくはないので、Titrationをすることで節約になります

Titrationの仕方

  • 製造メーカー指定の方法と、その1/2, 1/4, 1/8, 1/16倍量の蛍光抗体で染色しましょう
  • Staining index (SI)を計算して、一番SIが大きくなる条件を採用しましょう

製造メーカーはオススメの濃度を指定していることが多いですが、検体に占める陽性細胞数の割合は時と場合によって違うはずです。したがって、自分の検査対象・実験系での最適な使い方を調べる必要があります

3Dナカノが実施したTitrationの一例
等倍がよかった場合と、16倍希釈しても変化がなかったものを示します
(Conc.: 濃度, SI: Staining Index)
例えば、
  • 106細胞/100μLに対して5 μLを添加する方法が推奨されているなら、
  • Fc blockingをしたうえで(単染色なのでBrilliant Staining Bufferは不要)、
  • 5, 2.5, 1.25, 0.625, 0.31 μLの5通りで抗体を添加して細胞を染色します
  • 10色Titrationする場合は、これだけで既にチューブ50本分になりますが、
  • コストのみならず染色品質も改善するので、その価値は十分にあると考えます

Fc BlockingとBrilliant Staining Bufferに関しては、重染色の記事で詳しく解説します

Staining index (SI)は、

  • 染色の善し悪しの指標で、
  • 陽性集団と陰性集団の差と、陰性集団の非特異的染色を加味した指数です
  • よくみかける蛍光色素の明るさは、SIを比較したものになります
  • SIは各サイトメーターに固有の値をとるので、機器が違えば値も違います

SIはFACS解析ソフト(Flowjoなど)と、表計算ソフトで計算します。PositiveとNegativeをGateしてMFI(Median Fluorescent Intensity)の値と、NegativeのRobust SD(standard deviation)をFACS解析ソフトで出力してMFIの差÷rSD(neg)÷2でSIを計算します。Gatingのこつは、PositiveとNegativeの%が全部の濃度で一致するようにすることです

SI(Staining Index)の計算の仕方の一例

一度最適な濃度がわかったら、単染色(Compensation control)・重染色ともに同様の濃度で染色する事をオススメします(単染色にビーズを使用する場合は、その限りではありません)。抗体のロットが新しくなるたびにTitrationしている事例もあります 

まとめ:

さて、本日のフローサイトメトリーの抗体のTitrationのお話はいかがだったでしょうか。一度Titrationをはじめると、Titrationしないで実験することが耐えられないようになること請け合いです。読んでも不明な点は質問をお寄せください。自信を持って正しい結果を出せるように頑張っていきましょう!

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この記事を書いた人

卒後15〜20年の病院内科医のナカノです。資格は医師・総合内科専門医・リウマチ専門医・アレルギー専門医(内科)・博士(医学)です。現在はアメリカのワシントンDC郊外の研究所で研究者として働いてます。
暮らしに役立つ知恵や皆さんの健康に寄与する情報を発信していければと考えています。

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