染色した検体を懸濁して測定するまでの注意点 [FACS]

FACS tubes

今日は染色した細胞を懸濁して、サイトメーターに持っていくまでに注意する点について解説します。原則、臨床検査技師の方・血液内科医師・医生物学的な研究をする研究者を、想定聴衆として書きます。皆様に役に立つ内容ではないものの、日本語での情報は不十分だと感じてます。今後の日本発のサイトメトリーの臨床・研究のスタンダードが上がることを祈念しながら、医学者ナカノが解説していきます

目次

本日の結論:

  • サンプル懸濁に使われるバッファーには、
  • 細胞接着に必要な2価イオンをキレートするEDTAや、
  • 細胞を長生きさせるための蛋白(BSA/FBS)などを添加しているものが多いです
  • セルソートする場合フェノールレッド抜き・HEPES添加・清潔操作をオススメします
  • チューブはポリスチレンポリプロピレンの2種類があります
  • ポリスチレンのほうが多くのサイトメーターで使えます
  • 細胞がくっつきやすい場合、測定前にセルストレイナー使用をオススメします

検査・実験検体は、

検査や実験に使う細胞全般で、通常は電解質・pH・浸透圧・蛋白量・温度などをよく管理された培地ないしFACS bufferに懸濁されていると思います。Ficollとの接触・溶血操作・Wash・遠心分離・ピペッティングなどがすべて結果に影響するので、臨床・研究を問わず一定の品質を保ちたいところです

フローサイトメトリー用のサンプル調製の注意点は、

  • BSA/FBSなどの蛋白は生きている細胞を扱う場合、添加することをオススメします
  • 細胞接着に2価陽イオンが必要なのでMg2+・Ca2+なしのバッファーを使うとよいです
  • また、EDTAが添加されているとMg2+・Ca2+をキレートできるのでEDTA入りを選ぶのも手です
  • フェノールレッドは蛍光特性があるので、添加されていない無色の培地を使うほうが良いです
  • 接着しやすい細胞の場合はセルストレイナ―(30~35μm)が推奨されます
  • 細胞が生きている場合は代謝を落とすために測定まで氷上に置いておくのがよいですが、
  • 好中球のように冷やすと活性化して死ぬ細胞もあるので、検体次第の部分があります

セルソートする場合には

  • 長時間低CO2に晒されると炭酸緩衝液ではpHが上昇してしまうので、
  • HEPESを添加してpHを保つ(炭酸じゃない緩衝液を使う)ことがオススメです
  • セルソート後に培養を継続する場合に清潔操作に気をつける必要があります

懸濁する体積は

  • サイトメーターが1秒あたりに処理できるイベント数
  • サイトメーターが1分辺りに処理できるサンプル容量の概算
  • サイトメーター内で計測されずに無駄になってしまう分の容量

などを勘案して決定します。
サイトメーターは処理できるイベント数を超えると、Abortion rateなどの数値で処理落ちしていることを知らせてくれます。その場合余分にFACS bufferを持参してそのまま薄めることで対処が可能です。例えば1分あたり30μL処理できる場合、300μLで懸濁すると1本あたり10分近くかかります。一方で、例えば50μL無駄にするサイトメーターを使っている場合、200μLで懸濁すると25%の検体が測定されないことになるので、容量を増やしたほうが良いといえるでしょう

フローサイトメトリーで使うチューブは

通常5mLの容量のもので、

  • ポリスチレン製
  • ポリプロピレン製

の2種類があります


ポリスチレン製FACS tube (透明でぶつけるとカチャカチャ音がします)

ポリスチレン製の利点は、

  • 多くのサイトメーターで使用できて
  • Washのときに細胞が失われにくい点です

ポリスチレン製の欠点は、

  • 割れやすく、多くの場合割れたらチューブ交換が必要です
  • 細胞が接着しやすいので、測定イベントが減ってしまう可能性があります
  • (厳密に言えばBDなどサンプルに加圧する方式のサイトメーターでのみ、割れて困った事態になります)

ポリプロピレン製FACS tube (半透明でぶつけてもあまり音がしません)

ポリプロピレン製の利点は、

  • 細胞が接着しにくいので、測定イベントが増やせるかもしれないことです
  • 割れる心配は不要です

ポリプロピレン製の欠点は、

  • 細胞が接着しにくいので、Washで細胞が失われやすいかもしれないことです
  • 使えるサイトメーターが少ないです (セルソーター・Cytekなどでは使用可能)
  • 細胞が接着しにくい問題は実験操作の改善・均霑化で回避できる可能性があります

壮絶にどうでもいいトリビアですが、

  • ポリプロピレン:パーリープロピリーン (paa lee PROW puh leen)
  • ポリスチレン:パーリースタイリーン (paa lee STAI reen)

ポリプロピレンとポリスチレンは日本人にとって、スーパー難読語です


キャップなしキャップありセルストレイナー
ポリスチレン352052352054352235
ポリプロピレン352053352063
Corning社のFalcon®の型番

付属のセルストレイナーは35μmのもので、細胞実験にちょうどよい粗さです

キャップ兼セルストレイナ―
上から見た図

細胞の実数を測定したい場合、

  • カウンティングビーズを使用することをオススメします

特にサンプルに加圧する方式のサイトメーター(BDなど)は1秒あたりに処理されるサンプル量が一定にならず、細胞量を定量するのが難しくなりがちです。サンプルの懸濁のときに、FACS bufferとビーズを1:1ないし4:1くらいで混ぜて懸濁するだけで定量が可能になります

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まとめ:

本日の検査・実験検体の懸濁のお話はいかがだったでしょうか。意外に意識していなかった内容が含まれていたかもしれません。読んでも不明な点は質問をお寄せください。自信を持って正しい結果を出せるように頑張っていきましょう!

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この記事を書いた人

卒後15〜20年の病院内科医のナカノです。資格は医師・総合内科専門医・リウマチ専門医・アレルギー専門医(内科)・博士(医学)です。現在はアメリカのワシントンDC郊外の研究所で研究者として働いてます。
暮らしに役立つ知恵や皆さんの健康に寄与する情報を発信していければと考えています。

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