フローサイトメトリーで使われる蛍光色素について詳しく解説します。原則、臨床検査技師の方・血液内科医師・医生物学的な研究をする研究者を、想定聴衆として書きます。皆様に役に立つ内容ではないものの、日本語での情報は不十分だと感じてます。今後の日本発のサイトメトリーの臨床・研究のスタンダードが上がることを祈念しながら、医学者ナカノが解説していきます
本日の結論:
- 蛍光色素はポリマー色素とタンデム色素の登場で、飛躍的に発展しました
- ポリマー色素の名前はBUV・BV・BB・SBなどです
- 化学的に安定していますが複数の染色をする場合に、専用の試薬が必要です
- タンデム色素は化学的に不安定なので、
- ロット・紫外線・温度・経年劣化・固定などに注意が必要です
- 蛍光蛋白はfpbase.org一択です
言葉の解説をします
古典的な蛍光色素とは、
例えばFITC, PE, APC, PerCP, Pacific Blue, AmCyanなどがそれに該当します
Alexa Fluorも色々な色素が販売されていますがタンデム色素ではありません
古典的な蛍光色素は安定しているものの、単体だと光のスペクトラムをフル活用できないという欠点があり、タンデム色素やポリマー色素が開発されるに至りました
ポリマー色素は、
- 2010年代以降に開発された新しい蛍光色素です
- ポリマー色素の名前はBUV・BV・BB・SBなどで始まります
- BUV(Brilliant UV)・BV(Brillant Violet)・BB(Brillaint Blue)・SB(Super Bright)
最初に開発されたBrilliant VioletはVioletレーザーで励起される一連の色素で、BV421・BV480・BV510以外はすべてBV421のタンデム色素です。タンデム色素とは言え組成がポリマーなので、比較的安定であるとされています
ポリマー色素の良い点は、
- 化学的に比較的安定しているとされ、
- タンデム色素(後述)でも、ポリマーの方が比較的安定であるとされます
- シリーズ名とEmission maxの数字で名付けられているので分かりやすいです
ポリマー色素の悪い点は、
- ポリマー色素を2色以上使用する場合に、特殊なバッファーが必要なことです(後述)
タンデム色素とは、
- レーザーに励起される色素とFRETにより活性化される色素を組み合わさったものです
- PE/Cy7やAPC/Cy7は安定性が低くロット・紫外線・温度の影響でCy7が解離して、
- PE, APCとして認識されてしまう可能性があるというのが注意すべきです
- 一連の実験を別ロットの抗体で実施するのはオススメしません
抗体の残りが少なくてロットが別の抗体を使用する場合、事前に同一型番別ロットの抗体同志を混ぜて、コントロール・サンプルなどをすべて同一の条件で染色できるように工夫します
タンデム色素の良い点は、
- 1つのレーザー辺りの選択肢が広がることです
- 特にNIRなどの長波長側の色素の殆どがタンデム色素です
タンデム色素の悪い点は、
- ロット・紫外線・温度・経年劣化・固定などの影響を受けやすく、
- コントロール・サンプルの染色条件に制約が多くなることです
FRETとは、
- Förster resonance energy transferの略で、
- ドナー分子からアクセプター分子にエネルギーを渡すことです
例えば下の図はCFP→YFPのFRETを示したものです。CFPとYFPが十分に近い距離(100Å(オングストローム)以内)の時に、CFPが受け取ったエネルギーをCFPの青色の光を放射することなく、YFPを励起してYFP固有の黄色い光が放射されます。Emission(放射)のピークがずれることをストークスシフトといいます
ポリマーとタンデム色素の分類は、
ポリマー色素 | 非ポリマー色素 | |
タンデム色素 | その他大勢 | PE・PerCP・APCが先頭につくそれ以外の蛍光色素 |
非タンデム色素 | BUV395・BV421・BV480・BV510・SB436・BB515 | PE・PerCP・APC・FITC・Pacific Blue・Pacific Orange・AmCyan・Alexa Fluor・各種蛍光蛋白(GFPなど) |
覚え方は、
- ポリマー非タンデムのBUV395・BV421・BV480・BV510・SB436・BB515と、
- 非ポリマータンデムは先頭がPE・PerCP・APCから始まる
だけ覚えたら大体把握できると思います
ポリマー系タンデム色素一覧
ドナー | タンデム色素 |
BUV395 | BUV496・BUV563・BUV661・BUV737・BUV805 |
BV421 | BV570・BV605・BV650・BV711・BV750・BV785 |
SB436 | SB600・SB645・SB702・SB780 |
BB? | BB630・BB660・BB700・BB755・BB790 |
ポリマー系の非タンデム:BUV395・BV421・BV480・BV510・SB436・BB515
ポリマー系はBUV/BV/SB/BBなどの略称があるので判別しやすいです
Brilliant Blueのドナー分子は2023年時点では非公開です
非ポリマー系タンデム色素一覧
ドナー | タンデム色素 |
PE | PE-eFluor610・PE/Dazzle594・PE-TexasRed・PE-CF594・PE-Vio615・PE-AF610・PE/Fire640・PE-Cy5・PE-AF700・PE-Cy5.5・PE/Fire700・PE-Cy7・PE-Vio770 |
PerCP | PerCP-Cy5.5・PerCP-eFluor710・PerCP-Vio700 |
APC | APC-Cy5.5・APC-AF700・APC-R700・APC-AF750・APC-C750・APC-Cy7・APC-H7・APC-eFluor780・APC-Vio770・APC/Fire750・APC/Fire810 |
ポリマー色素は使用上の注意点は、
- 2つ以上のBV・BUV・BB・SBを使用するときはポリマー色素染色試薬が必要なことです
- Brilliant Stain Buffer Plusがオススメです
- Fc Blockingと同じタイミングでしましょう
ポリマー色素は色素同士が結合しやすいことがわかっており、2つ以上のBV・BUV・BB・SBを使用するときはBrilliant Stain BufferやSuper Bright Complete Staining Bufferを使用するように推奨されています。多くの場合はBrilliant Staining BufferはFc Blockingと同時に実施されています。抗体のTitrationは単一の抗体なのでFc Blockingだけで良いです
3DナカノはSuper Brightを使ったことがありません。複数ポリマー色素染色試薬はメーカーによって効き目に差があるようなので、3DナカノはBDのBrilliant Stain Buffer Plusを使っています。Plusがついていない方は添加する量が多く、肝心の抗体が希釈されてしまいます。3DナカノはBrilliant Stain Buffer Plus一択です
タンデム色素の使用上の注意点は、
- ドナー色素に必ず漏れ込みがあるので、検査・実験の度に単染色コントロールが毎回必要です
- 光・温度・酸化に敏感なので、露光・温度変化などを避けるほうがよいです
- 固定する場合30分以内にすることが推奨されています
- ゲーティング(細胞集団の陽性・陰性の判断)には、FMOを使用することが推奨されています
FMOコントロールについては長くなるので別の記事で扱います
単球・マクロファージなどに食されやすい色素とは、
- PE/Cy5・PE/Cy7・PE/Dazzel594・APC/Fire750・APC/Cy7・PerCP/Cy5.5などです
- これらの色素は抗体の特異性にかかわらず、
- 単球・マクロファージなどに結合する恐れがあるとされています
Biolegend社ではFcレセプターのブロッキングで対処できない現象を解決すべくTrue-Stain Monocyte Blockerを発売しています。3Dナカノが必要になったことはないのですが、知っていてもいい知識だと思ったのでシェアします
蛍光蛋白(Fluorescent protein)の特性は、
- fpbase.orgを見るのが一番よいです
- 蛍光蛋白の開発の歴史・アミノ酸配列・光学的な特性など多くの情報が得られます
まとめ:
本日のフローサイトメトリーで使う蛍光色素の基礎知識はいかがでしたか。3Dナカノはそうと知らずにBrilliant Staining Bufferなしで実験をしていたことがあるので無知は怖いと思いました。読んでも不明な点は質問をお寄せください。自信を持って正しい結果を出せるように頑張っていきましょう!
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