フルイディクス(Fluidics)について [FACS]

フルイディクス

フルイディクス(Fluidics)について詳細に解説します。原則、臨床検査技師の方・血液内科医師・医生物学的な研究をする研究者を、想定聴衆として書きます。皆様に役に立つ内容ではないものの、日本語での情報は不十分だと感じてます。今後の日本発のサイトメトリーの臨床・研究のスタンダードが上がることを祈念しながら、医学者ナカノが解説していきます

目次

本日の結論:

  • 細胞が一つ一つ規則正しくレーザー光に照射されるように水流を作る仕組みです
  • 層流で流れるシース液の中にサンプルを注入します
  • 気泡が入らないように注意が必要です
  • Low-Medium-Highはサンプル注入量が変化します・Highはデータがばらつきます

フルイディクスは、

細胞が一つ一つ規則正しくレーザー光に照射されるように水流を作る仕組みです。シース(Sheath)液が流れているところにサンプル(患者や実験検体)を注入して乱流が起きない(層流)ように流れを巧みにコントロールしています

フルイディクスの流れ (シースタンク→サンプル注入→レーザー照射→廃棄)

シース(Sheath)液は、

  • 主にはPBS(リン酸緩衝液・pH比較的一定)ないし純水で構成されます
  • フルイディクスの流速を規定します
  • 気泡が混入すると惨事に発展します

シースタンクにコンプレッサーで加圧して水流を作るサイトメーターが多く、サイトメーターの電源を入れると若干音がうるさい原因にもなっています。Low-Medium-Highなどの設定にかかわらず、シース流は一定の流速に調整されています
層流が維持されているのでレーザーとの接触点(Interrogation point)までは、シース液とサンプルは混ざりません。それ故、純水を使用していても細胞が浸透圧の影響で膨張・破裂することはありません
シース液に気泡が入っているとフルイディクス内のノイズが多い状態になり、細胞の観測ができなくなります。サイトメーター使用の30分程度前までに、シースタンクにシース液を補充することがオススメされています(使用終了直後だとなおよし)

サンプルは、

  • シース液の層流の中心に注入されます
  • シース流とサンプルはレーザー照射点まで混ざることはありません
シース液の中を流れてレーザー照射点まで、列をなして運ばれる細胞
緑色の部分は乱反射した光を観測しています

Low-Medium-Highの設定でサンプル注入量が変わります

注入量が多い(High)と、レーザー照射量のばらつきが増え、データがばらつきます
サンプルの注入量に関係なく、フルイディクスは一定の流速で流れています。サンプル注入量が増える(High)と、中心のサンプル流が太くなります。レーザー光の辺縁と中心では励起エネルギーが異なるので、蛍光色素の量が同じでも中心のほうが明るく辺縁のほうが暗く観測されます。その結果、Lowで観測する場合に比べて観測データのばらつきが大きくなってしまいます
一方でLowでデータを取得すると単位時間当たりのデータ処理量が減るので、時間やランニングコストが勿体ないという問題もあります。中庸をよしとして、Mediumで実験するひとが多い印象です。注入量は実験・データ取得の途中で変更するのはオススメされません

LowMediumHigh
時間長時間中間短時間
データ品質高い中間低い
サンプル注入速度とそれに伴う各パラメタ―


多くの場合サンプルにコンプレッサーで陽圧をかける方式(定圧式)で、サンプルがサイトメーターに取り込まれています。この場合、使用しているFACSチューブに割れがあると、サンプルが機器に注入されません。また、注入速度はサンプルの状況によりまちまちなので、容量あたりの定量が必要な場合Counting beadsを使うことがオススメです (まれにシリンジを使った定量式のサイトメーターもあります)

気泡を取り除くために、

  • シース液のフィルターがある場合は空気が入っていないか確認します
  • 気泡を取り出すための出口(オレンジ色)を操作します
  • サイトメーターに繋がる側のチューブを下向きにすると、気泡がトラップできます

フルイディクスに影響が大きいサンプルは、

  • 死んだ細胞が多いもの
  • 大きくて形が複雑・くっつきやすい細胞
  • 界面活性剤
  • 有機化合物

が挙げられます。
死んだ細胞はDNAを細胞外に放出している場合があり、フルイディクスの詰まりを起こす場合があります。DNase(DNA分解酵素)で処理すると有効な場合もあります

筋肉や神経などの大きな細胞は詰まりやすくて若干難易度が高い場合があるようです。セルライン(不死化細胞)・上皮細胞・腫瘍細胞は、くっつきやすい性質のものが多いとされます。2価の陽イオン(Ca2+・Mg2+)を含まないバッファーや、EDTAでキレートすると有効な場合があります

界面活性剤はサンプル流とシース流が混ざる作用があります。サイトメーターをシャットダウンするときには、界面活性剤を使用すると効率よくフルイディクスの洗浄が出来ます

エタノールやメタノールなどの有機化合物は粘稠度が低くフルイディクスの流速が変化します(速くなる)

まとめ:

さて、今日のフローサイトメトリーのフルイディクスのお話はいかがだったでしょうか。流速に関する真実や加圧系の話は意外に解説されていないように思います。読んでも不明な点は質問をお寄せください。自信を持って正しい結果を出せるように頑張っていきましょう!

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この記事を書いた人

卒後15〜20年の病院内科医のナカノです。資格は医師・総合内科専門医・リウマチ専門医・アレルギー専門医(内科)・博士(医学)です。現在はアメリカのワシントンDC郊外の研究所で研究者として働いてます。
暮らしに役立つ知恵や皆さんの健康に寄与する情報を発信していければと考えています。

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