フローサイトメトリーのコントロールについて今日は詳細に解説します。原則、臨床検査技師の方・血液内科医師・医生物学的な研究をする研究者を、想定聴衆として書きます。皆様に役に立つ内容ではないものの、日本語での情報は不十分だと感じてます。今後の日本発のサイトメトリーの臨床・研究のスタンダードが上がることを祈念しながら、医学者ナカノが解説します
本日の結論:
- CS&Tはサイトメーターの毎日の微調整を行う操作です
- また測定系で異常が出始めた日以降のデータを除外するのにも有効です
- 自家蛍光は未染色細胞を使用します
- 単染色検体はビーズと細胞をつかう方法があります
- FMOコントロールはゲートを引くために最適のコントロールです
主な実験・検査のコントロールは、
- 機器のコントロール
- 蛍光色素のコントロール
- 実験のコントロール
の3種類があります
機器のコントロールは、
- CS&T(Cytometer Setup and Tracking)ビーズを使って行います
- CS&Tビーズはとても安定した蛍光特性を持つビーズです
- 毎日のレーザー出力などの微調整と、検出系の正しさを担保します
サイトメーターの日々の流路系・レーザー出力・PMTなどの電送系などの変化を調整して、日較差を減らす働きがあります。CS&Tビーズの計測を追い続けると、どの時点でサイトメーターの働きに異常が発生したか特定が可能です。異常が発生している時期のデータは正しくない可能性があり、検査や実験の解析からは除外されるべきであると考えられています
場合によっては中央部門がCS&Tを請け負っている場合もあると思いますが、その場合でも直近でいつ実施されているのかは知っておくべきことだと思います(FCSファイルには記録されています)
蛍光のコントロールは
- 自家蛍光(Autofluoresence)コントロール
- 単染色コントロール
の2種類があります
自家蛍光(Autofluoresence)は、
主にViolet/Blue Laserで励起されて400~600nm(緑)のチャンネルで検出される蛍光です
未染色(Unstained)の細胞を使って測定します
大きい細胞を使うときに問題になりやすいです
スペクトロサイトメーターでは自家蛍光を除去するオプションがあります
単染色コントロールは、
- コンペンセーション・Unmixingなどに使う単染色の検体です
- 細胞とビーズで行う方法があります
陽性細胞が少なすぎる場合(FOXP3など)や、そもそも細胞が希少な場合にビーズが有効です
スペクトルサイトメーターの場合細胞の方が適切な場合もあります
コンペンセーションコントロールに関して詳しくは以下の記事をご覧ください
実験のコントロールは、
- FMOコントロール
- 2次抗体のみのコントロール
- 非刺激コントロール
- レファレンスコントロール
などがあります
FMOコントロールは、
- Fluorescence Minus Oneの略で重染色検体から1色のみ除いたものです
- フローサイトメトリーの実験でゲートを引くために最適のコントロールです
- 一度は全部の抗体でFMOを作ってみるべきという意見も聞かれます
- 3Dナカノは明らかに分かれるCD3, 4, 8のような抗原ではFMOは作りません
FMO controlに関して詳しくは以下の記事をご覧ください
2次抗体のみのコントロールは、
- 細胞内染色などで1次抗体を使用せず、
- 2次抗体のみを使用するコントロールです
バックグラウンドに残った2次抗体の量を検討することができます。細胞内染色を行う場合に通常少なくとも1回は実施することが多いと思います
非刺激コントロールは、
何かの試薬で細胞を刺激する実験の場合に使われる場合があります
レファレンスコントロールは、
経時的に臨床検体などを染色するパネルなどで毎回同じ凍結検体を染色して、
測定日の染色条件が妥当か確認するコントロールです
まとめ:
今日の実験のコントロールの話はいかがだったでしょうか。若干堅苦しい内容ではあると思いますが、特にFMOコントロールはゲートを根拠をもって引くのに重要です。ややもすると恣意的になってしまうフローサイトメトリーの結果の解釈に、大きな自信をもたらしてくれると思います。読んでも不明な点は質問をお寄せください。自信を持って正しい結果を出せるように頑張っていきましょう!
コメント