コンペンセーション(後編)~理屈と適用の仕方 [FACS]

コンペンセーションの計算

フローサイトメトリーの鬼門、コンペンセーションのお話です。後編ではコンペンセーションの理屈と、実際の適用の仕方について詳細に解説します。原則、臨床検査技師の方・血液内科医師・医生物学的な研究をする研究者を、想定聴衆として書きます。皆様に役に立つ内容ではないものの、日本語での情報は不十分だと感じてます。今後の日本発のサイトメトリーの臨床・研究のスタンダードが上がることを祈念しながら、医学者ナカノが解説していきます

前回のコンペンセーションが必要な理由と準備についての記事がまだなら、先にご覧になっていただく方がいいと思います

目次

本日の結論:

  • コンペンセーションは単染色の検体を用いて、他のチャンネルへの漏れ込みの影響を推定し、中央値を一致させる演算です
  • コンペンセーションは、N色を使うとN x (N-1)通りの調整が必要です
  • 故に、目視でコンペンセーションをする(できる)時代は終わりました
  • 解析ソフトで正しくコンペンセーションをして、正しくデータを解析しましょう

言葉の解説をします、

理屈抜きにFlowjoでのコンペンセーションの仕方が知りたい場合は、

へ飛んでください

Compensation matrixとは、

漏れこみを補正する割合をまとめた表です

2色で染色した場合はBV605→BV650と、BV650→BV605に漏れる成分を取り除く必要があります。取り除く割合をCompensation matrixと呼んで、この場合2×2表であらわされています

BV605とBV650のCompensation controlの計算の仕方
右上のMatrixは引き算する割合をまとめた表です
コンペンセーション後は、不可避的にデータが広がるのでCurly gateが役に立ちます

一般にN色のパネルを作った場合Nx(N-1)のコンペンセーションが発生します。20色の場合380か所のコンペンセーションが発生することになります。自分の目でCompensation matrixを調整することが不可能なのが理解できると思います

例えば3色の場合のパラメーターは、

PE・PE/Cy5・PE/Cy7の3色それぞれの測定値(obs)と真の値(act)のそれぞれは
例えばPEの測定値はPEと、PE/Cy5とPE/Cy7の漏れ込みで成り立っているので
PEobs = PEact + a * PE/Cy5act + b * PE/Cy7act (a, b は係数)
のように表せます

全部のパラメーターについて同様の式を作ってこれを解くことは、N元1次方程式(N個の分からない数 x, y, z, …が含まれるN個の式)を解くことと同義になります。実はこのような計算は高校数学Cで扱った、行列・逆行列を使うと効率的に計算できます(が、理解できなくてもOKです)

例えば3色の場合の演算は、(読み飛ばしてOK)

以下の図のように計算されます。難しい行列演算のようにも見えますが、N色で染める場合N元一次方程式を解く作業になります。実際にコンピューターがしている演算は、Compensation controlの漏れこみの量から逆行列(M-1)を計算して、各色素を補正するという作業です

コンピューターがコンペンセーションするのにしている行列演算の過程

コンペンセーションはいつするべきなのか、

  • データ測定事後にFlowjo/FCS expressなどを使うのが正確とされています
  • セルソートの時は、DIVAで分取する細胞集団を同定するのにコンペンセーションはマストです

DIVAなどのフローサイトメーター付属のソフトでデータを取りながらコンペンセーションをすることもできます。また、Flowjoなどの解析専用ソフトでもコンペンセーションをすることができます。解析ソフトのほうが正確に計算できると考えられているので、3DナカノはDIVAなどの機器付属のソフトではコンペンセーションをしていません。ただ、今後解析ソフトとデータ取得ソフトが統合される流れなので、近いうちにあまり意味のない質問になるかもしれません

Flowjoでのコンペンセーションの流れ

STEP
最初にCompensation Groupに単染色と未染色(Unstained)のデータをDrag&Drop
STEP
次に細胞・ビーズをFSc/SScでゲートして、陽性集団と陰性集団のゲートをします
STEP
Compensation Groupを選択した状態で、双曲線が2つ繋がったアイコンをクリック
STEP
パラメータ―・データ・陽性・陰性集団を選んでコンペンセーションの程度をMatrixで確認

ここで、陰性集団が存在していない場合(例えば好中球分画でCD16)、未染色(Unstained)をDrag&Dropして蛍光特性をFlowjoに指定することが出来ます

STEP
マトリックスは列側が検出器で、行側が蛍光チャンネルが漏れ込む成分

100%を超えている場合は、本来の検出器でないチャンネルの方に多く漏れ込んでいるという意味になり、パネルの再考を検討する必要があります

STEP
コンペンセーションの適用

グループの全部のデータにコンペンセーションを適用したい場合、「Apply To Group」をクリックし、適用したいグループを選択します

特定のサンプルだけコンペンセーションを適用したい場合、[M]をクリックして適用したいサンプルにドラッグ&ドロップすると適用できます

まとめ:

さて、コンペンセーションについて解説をしましたがいかがだったでしょうか。3Dナカノはコンペンセーションの原理について解説を受けて目からうろこが落ちました。若干クセのある作業で中々慣れるまで自信を持ってできない場合もあると思います。読んでも不明な点は質問をお寄せください。自信を持って正しい結果を出せるように頑張っていきましょう!

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この記事を書いた人

卒後15〜20年の病院内科医のナカノです。資格は医師・総合内科専門医・リウマチ専門医・アレルギー専門医(内科)・博士(医学)です。現在はアメリカのワシントンDC郊外の研究所で研究者として働いてます。
暮らしに役立つ知恵や皆さんの健康に寄与する情報を発信していければと考えています。

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