治療目標と低血糖対策 (ADA2023)[糖尿病]

血糖目標と低血糖管理

内科医の3Dナカノが糖尿病の治療目標と低血糖対策について解説します。米国糖尿病学会の年末年始恒例イベントの、ガイドライン更新時期がやってきました。内科医3Dナカノは、成人の2型糖尿病(1型糖尿病・妊娠糖尿病・小児・日本で珍しい病気に合併した糖尿病は除く)についてシリーズで取り上げますので、一緒に勉強していってください

目次

本日の結論:

  • (妊娠していない)成人の一般的な糖尿病治療目標は、
  • HbA1c 7%未満 食前血糖 80~130mg/dL 食後血糖 180mg/dL未満 です
  • HbA1c 6~7%で管理すると微小血管病変(神経・眼・腎臓)にはいいのですが、
  • 低血糖を起こすようだと、大血管病変(心臓・脳・動脈)や寿命の短縮につながります
  • 低血糖は直ちに治療が必要です。口から糖分を摂れない場合グルカゴンが使用できます
  • 低血糖が起きた時には、治療内容の変更・検査・予防法などの相談をオススメします

結論のもとになったADA推奨は次のとおりです

6.1 治療ターゲットを満たしている場合でも、年に最低2回は検査する(血糖・HbA1c)

6.2 治療ターゲットを満たさないか治療を変更した場合、最低3か月後に検査する

6.5a 非妊娠成人でHbA1c 7%未満で、低血糖がなければ妥当である

6.6 HbA1c 7%より低い管理は、低血糖がなくて患者医師が同意するなら可能

6.7 HbA1c 8%未満という緩い管理は、低血糖などの副作用や余命が限られている場合妥当な場合がある

6.10 低血糖は毎回確認して疑わしければ調査をするべき

6.11 血糖値70以下の自覚のある低血糖は、ブドウ糖15~20gで治療するのが最善だが、ブドウ糖を含む炭水化物なら何でもよい。15分後に再度血糖を測定して、血糖が回復するまで繰り返す。血糖が回復したら、再び低血糖にならないように食事かおやつを摂る

6.12 レベル2~3の低血糖のリスクが高い患者にはグルカゴンを使用できる準備をする。グルカゴンの投与は医療者に限定されていないので、家族など介護者も実施が可能なので介助の訓練をされるべき

6.13 無自覚な低血糖ないしはレベル3の低血糖があった場合には、再発防止のための教育・再評価・治療変更をする

ADA2023

言葉の解説をします

妊娠していない大半の成人での血糖の目標は、

血糖目標まとめ!
  • HbA1c 7%未満
  • 食前血糖 80~130mg/dL
  • 食後血糖 180mg/dL未満

です。HbA1cの目標は以前より緩和されましたね
食後血糖は食事開始後1~2時間で測定します。食前血糖がよいのにHbA1cが目標を満たさない場合、食後血糖を下げるような薬の調整にするといいようです

HbA1cを6~7%の間にした方がいいのは、

  • HbA1cと微小血管病変(神経・眼・腎など)の進展に相関があるためで、
  • 低いHbA1cを低血糖を起こさず達成できる場合には、現在の治療を続けるのが妥当でしょう
  • 一方で低血糖は心血管イベントと死亡のリスクになっているので、
  • 低血糖を起こす場合には低いHbA1cを目標とすることがが不適切になります
図6.2 より一部改編

低血糖とは、

  • 血糖値が70以下となり、諸症状が出る状態です
  • 症状は震え・イライラ・混乱・頻脈・空腹などが典型的ですが、出ない場合もあります
  • 生命の危機に陥る可能性があるので、可能な限り避ける必要があります
  • また治療の限界を左右する大事な要素なので、その点でも認識することが重要です

低血糖の分類は

3種類に分かれていて、

レベル1血糖値54以上70未満
レベル2血糖値54未満
レベル3精神か身体の変容を来して低血糖の治療に補助が必要・生死にかかわる
表6.4 低血糖の分類
  • 糖尿病がない健常者は血糖値70未満で低血糖症状を呈します
  • 血糖値54は低血糖神経症状があらわれ、症状改善のために直ちに治療が必要な状態です
  • レベル3は自覚症状がある場合とない場合があり、失神・痙攣・昏睡・死などの転帰をたどります
  • 低血糖のリスクは、インスリン使用中・血糖コントロール不良・認知機能の衰え等が挙げられます

低血糖の治療は、

  • ブドウ糖(ハチミツなど)を服用することですが、
  • もしブドウ糖が含まれる食品がなければ、炭水化物を摂取します
  • 15分後に再度血糖を測定して、血糖が回復するまでこれを繰り返します
  • 血糖が回復したら、再び低血糖にならないように食事かおやつを摂りましょう
  • 高脂肪・高蛋白の食事は血糖回復の妨げになる可能性が指摘されています

患者本人が炭水化物を摂取出来ないか希望しないとき、

  • グルカゴンG®ノボ注射用1mgを皮下注射したり、
  • バクスミー®点鼻粉末剤を鼻から噴霧したりすることで対応します

グルカゴンは肝臓に蓄えられている糖分を血中に放出させるホルモンで、血糖値を上昇させる作用があります。かつては溶解液で粉末をとかす一手間がある製剤しかありませんでしたが、2020年に日本でも点鼻で使えるバクスミー®点鼻粉末剤が発売されました。ご利用の際は使用期限にご注意ください。家族や介護者が低血糖に対応する手段が増えたのは喜ばしいことだと3Dナカノは思います

バクスミー®点鼻粉末剤・薬価約\8400(医療保険でその2-3割)

低血糖の予防は、

  • どういう時に低血糖が起きやすいか(絶食・食事の遅れ・飲酒・過度の運動・睡眠中など)、
  • まず理解をするところから始まります

炭水化物摂取とインスリンの量(注射・内服薬)のバランスを取ったり、場合によっては持続血糖モニター(CGM)を考慮してもよいかもしれません。低血糖がある場合には是非早めに先生と相談して、再発を防止しましょう

まとめ:

本日は糖尿病の治療目標と低血糖対策のお話を取り上げました。バクスミーが2020年に発売になるまでグルカゴンは正直扱いづらく、3Dナカノは実際に患者さんに処方したことがありません。学会としては患者さんごとにHbA1cの目標を個別化することを大事に考えているようなので、是非図6.2より改変した表をご覧になって今一度ご自身の場合どの位が妥当なのかお考えになってください。是非記事を健康長寿にお役立てください!

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この記事を書いた人

卒後15〜20年の病院内科医のナカノです。資格は医師・総合内科専門医・リウマチ専門医・アレルギー専門医(内科)・博士(医学)です。現在はアメリカのワシントンDC郊外の研究所で研究者として働いてます。
暮らしに役立つ知恵や皆さんの健康に寄与する情報を発信していければと考えています。

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