内科医の3Dナカノが糖尿病の網膜症について解説します。米国糖尿病学会の年末年始恒例イベントの、ガイドライン更新時期がやってきました。内科医3Dナカノは、成人の2型糖尿病(1型糖尿病・妊娠糖尿病・小児・日本で珍しい病気に合併した糖尿病は除く)についてシリーズで取り上げますので、一緒に勉強していってください
本日の結論:
- 糖尿病網膜症とは糖尿病の方で年率3~4%で発症する眼の病気です
- 重症になると失明の恐れもあり、日本で失明する原因2位になっている病気です
- 2型糖尿病の診断時に眼科で散瞳のうえ検査を受けることが推奨されています
- 網膜症がなくて血糖コントロールがよい場合、1~2年毎の検査でよいです
- 網膜症があるなら、散瞳検査最低1年に1回行うことが望ましいです
- 進行や視力障害があるなら、それより頻繁に検査を行うことになります
結論のもとになったADA推奨は次のとおりです
米国糖尿病学会2023ガイドライン
- 12.1 糖尿病網膜症の進展を遅らせるべく血糖値を最適化するべし
- 12.2 糖尿病網膜症の進展を遅らせるべく血圧と脂質を最適化するべし
- 12.4 2型糖尿病患者は診断時に散瞳のうえ、視能訓練士か眼科医による包括的な眼科検査をされるべき
- 12.5 網膜症がなくて血糖コントロールがよいなら次のスクリーニングは1~2年後・網膜症があるなら散瞳検査を最低1年に1回行う・進行や視力障害があるならそれより頻繁に検査を行う
- 12.6 眼底写真と遠隔診断を行うプログラムは、遅滞なく専門家への紹介を提供する必要がある
- 12.9 黄斑浮腫・中等度以上の非増殖性の網膜症・増殖性の網膜症は遅滞なく眼科に紹介する
- 12.10 全網膜レーザー光凝固は、高リスクの増殖性網膜症と、重度の非増殖性網膜症の一部で適応がある
- 12.11 抗VEGF薬を硝子体内注射は、増殖性網膜症の失明のリスクを減らす代替案である
- 12.12 糖尿病による中心窩の黄斑浮腫の第一選択に抗VEGF薬を硝子体内注射はなりうる
- 12.13 黄斑局所の直接/格子状光凝固と硝子体内ステロイド注射は、抗VEGF薬が効かないないし使えない糖尿病黄斑浮腫の代替案になりうる
- 12.14 アスピリンは網膜出血を助長しないので、網膜症があっても必要ならアスピリンを使用して良い
言葉の解説をします
糖尿病網膜症とは、
- 糖尿病が原因で糖尿病患者さんの眼におこる病気です
- 重症になると失明の恐れもあり、日本で失明する原因2位になっている病気です
- 高血糖・重症低血糖・高血圧・脂質異常・腎臓病・喫煙がリスクになっています
アジア地域の糖尿病患者さんのデータでは、約20%の方が網膜症を発症していて、視力を脅かす程悪いのは全体の約5%だったというデータがあります。糖尿病患者さんで年率3~4%で網膜症を発症するとされているので、定期的な眼科受診が推奨されています
急激に血糖値を是正すると、網膜症の悪化をもたらすことがあるとされ、GLP-1阻害薬という種類の薬で特に注意が必要との記載がありました
散瞳とは、
- 眼の光を取り入れることに関わっている筋肉をリラックスさせて、
- 網膜を診やすくするための目薬(点眼)による処置です
- 眼の状況を把握するのには役に立ちますが、
- 眼科の帰り道は光がまぶしすぎて安全に家に帰るだけで精いっぱいになります
- 検査日は予定を最少限にすることをオススメします
- 緑内障などの状況があると、散瞳をしてはいけない場合もありますが、
- 担当の先生が適切に判断してくれると思います
糖尿病網膜症の重症度は、
国際重症度分類によれば
1 | 網膜症なし |
2 | 軽症非増殖網膜症 |
3 | 中等症非増殖網膜症 |
4 | 重症非増殖網膜症 |
5 | 増殖網膜症 |
に分かれています
スクリーニングの検査は、
2型糖尿病の診断時に散瞳の上眼底の検査を行うことが推奨されています
その後の検査の頻度は、
網膜症がなくて血糖コントロールがよい場合 | 1~2年後 |
網膜症があるなら | 散瞳検査最低1年に1回行う |
進行や視力障害があるなら | それより頻繁に検査を行う |
眼底写真と遠隔診断を組み合わせたプログラムは、
- 専門家がいない僻地では有効な手段であると考えられていますが、
- 写真の品質が悪い場合や、写真に悪化が見られた場合眼科受診が必要です
- 結局、眼底写真は散瞳による眼科検査の代わりにはならないということです
網膜症の治療は、
- 網膜レーザー光凝固
- 硝子体内抗VEGF薬注射
- 硝子体内ステロイド注射
- 網膜硝子体手術
などが、あり日本の2020年の糖尿病網膜症のガイドラインにも記載があります
正直眼科の先生以外あまり詳しくない領域ですがちょっと調べてみました
網膜レーザー光凝固は、
全体をレーザーで固定する汎光凝固と、一部だけ固定する直接/格子状光凝固があります
網膜が剥がれて視力がなくなってしまうのを防ぐ治療です
硝子体内抗VEGF薬注射は、
- 白目の部分から眼の内部(硝子体)に向けてお薬を直接注射する治療です
- VEGFは血管内皮細胞増殖因子の略称です
- VEGFを抑えることで新しく血管ができて視界を妨げるのを阻止します
- ルセンティスとアイリーアが日本では承認されていて薬価は13~15万と高額です
- 病状によっては網膜レーザー光凝固よりよい成績を出している治療です
硝子体内抗VEGF薬注射の合併症は、
- 全身的には脳梗塞・心筋梗塞などを引き起こす可能性と、
- 注射した眼の緑内障・感染を引き起こす可能性が指摘されています
- (黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドラインより)
脳梗塞・心筋梗塞は糖尿病を患っているだけで可能性が上がっているのですが、添付文書を見る限り発症率は1%もないようです。眼圧上昇(緑内障)は糖尿病のケースだと3~6%程度、眼内炎(感染症)は1%未満のようです
硝子体内ステロイド注射は、
- 抗VEGF療法が効かなかったか、様々な理由で使えない場合に、
- 抗VEGF薬のかわりにステロイドを注射するものです
ステロイドは緑内障・白内障などの眼の病気の原因にもなるので、硝子体手術とともに最後の手段として使われているようです
まとめ:
今日は糖尿病網膜症に関する米国糖尿病学会のガイドラインを解説しました。抗VEGF薬は日本で2009年と2012年に発売されたので、3Dナカノは学生時代には教わっておらずなじみが薄いお話でした。興味深かったので調べているうちにちょっと深追いしすぎてしまったかもしれません
眼はヒトの感覚の中でもかなりの割合を占める大切なものです。糖尿病と診断されたら定期的な眼科受診のオススメを軽視せず、受診是非コンテンツを健康長寿にお役立てください!
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