内科医の3Dナカノが糖尿病の天王山!食事について解説します。米国糖尿病学会の年末年始恒例イベントの、ガイドライン更新時期がやってきました。内科医3Dナカノは、成人の2型糖尿病(1型糖尿病・妊娠糖尿病・小児・日本で珍しい病気に合併した糖尿病は除く)についてシリーズで取り上げますので、一緒に勉強していってください
本日の結論:
- 理想の食事というのは存在しないので、個別で栄養指導を受けるのが一番オススメです
- 澱粉質の野菜・加糖食品・精白された穀物・加工食品を避けましょう
- 炭水化物は量より質の方が大事で、食物繊維が豊富で加工が最小限のものを、
- 野菜・豆・果物・乳製品・Whole grainsなどから摂取する方が良いとされます
- 脂質も量より質が大事で、飽和脂肪酸・トランス脂肪酸を避けるべきです
- アルコールは低血糖に注意しながら、適量までなら長期的にも問題ないようです
結論のもとになったアメリカ糖尿病学会推奨は次のとおりです
5.10 糖尿病患者に認定栄養士による個別化した栄養療法を提供する
5.12 体重超過があれば最低限5%の体重減少を推奨
5.13 理想の食事は存在せず、食事の品質・総カロリー・目標を考慮の上、個別化を図るべき
5.15 炭水化物全般を減らすのは血糖抑制に有効であるという根拠がある
5.16 炭水化物は高繊維(14g/1000kcal)で精製されていない、非澱粉質の野菜・果物・豆・Whole grains・加糖されていない乳製品が良い
5.17 ジュースを含む加糖された飲料をやめ、代わりに水か低カロリー飲料に置き換える
5.20 蛋白摂取はインスリンへの反応をよくするので、低血糖気味の患者では回避する
5.21 不飽和脂肪酸が多い地中海式食習慣は血糖・CVDともに改善させるかもしれない
5.22 長鎖N-3脂肪酸を多く含む魚油(EPA, DHA)やナッツ種(ALA)はCVDの予防に推奨
5.23 ビタミン・ミネラル・ハーブ・スパイスは明らかな欠乏がなければ推奨しない
5.24 糖尿病で飲酒する場合は女性で1杯・男性で2杯までに制限する
5.25 特にインスリンとその分泌促進薬を使用している場合は、アルコールによる遅延性低血糖が起きやすいので、教育と低血糖対策をすることを推奨する
5.26 食塩は5.8gまで
5.27 人工甘味料は総カロリーを減らすのに役立つかもしれない
ADA2023
言葉の解説をします
糖尿病患者さんの食事は、
- 伝統・文化・宗教・健康観・収入・代謝の目標などを勘案して総合的に判断しましょう
- 澱粉質の野菜・加糖食品・精白された穀物・加工食品を避けましょう
- 地中海式・植物主体・低炭水化物の食習慣などが一例になります
澱粉質の野菜とは例えばジャガイモ・トウモロコシなどです。精白された穀物は例えば小麦粉・白米で、全粒粉や玄米のほうが望ましいという意味合いです
地中海式の食習慣(Mediterranean diet)とは、
- 果物・野菜・Whole grains・豆・ナッツ・種を多く含んだ食事で、
- 脂質は通常オリーブオイルから摂取し、
- 少~中量の、魚・鶏・乳製品・ワインを含み、
- 赤身肉は最小限にとどめたものです
植物中心・ベジタリアンの食習慣とは、
- シリアル・果物・野菜・豆・ナッツを中心とし、
- 肉・乳製品・卵などは流派によって大きく異なります
低炭水化物(総カロリーの25%以下)の食習慣とは、
- 血糖目標が達成できていない糖尿病患者さんで、
- 血糖降下薬を減らすのに役に立つ可能性があります
- 一方で糖尿病患者さんの炭水化物の平均割合は45%とされており、
- 1年以上の長期間にわたる低炭水化物の継続は難しいというデータも出ています
超低炭水化物(総カロリーの10%以下)の食習慣は、妊娠・授乳・小児・腎臓病・摂食障害がある場合には推奨されません
糖尿病プレート法(plate method)とは、
- 直径9インチ(23cm)の皿に半分非澱粉質の野菜を盛って、
- 残りの4分の1ずつに、肉と炭水化物を盛る方法です
カーボカウンティングのほうが正確な方法ですが若干複雑です。方法は色々あるものの、食品に対する気遣いや理解を深めることが重要になります
絶食や時間制限を使う方法も最近注目されていて、
- 間欠的絶食には隔日(1日おき)に500~600kcalにしたり、
- 週2日だけ500~600kcalにしたりという方法(5:2 plan)もあります
- 食事時間制限(TRE: Time-restricted eating)は例えば8時から16時までしか食べない方法で、カロリー計算など不要で他の方法よりも簡単なので好まれているようです
炭水化物の量より質の方に着目するべきで、
- 砂糖・脂肪・塩が添加されているものを避けて、
- 食物繊維が豊富で加工が最小限のものを、
- 野菜・豆・果物・乳製品・Whole grainsから摂取する方が良いとされています
糖尿病患者さんで食物繊維を定期的に摂取すると全死亡率が低下するというデータがあり、最低でも14g/1000kcal以上摂取することが推奨されています。食物繊維は根菜・豆類・海藻類に豊富に含まれているのですが、個別の計算はかかりつけの医療機関の栄養士さんに計算していただくのがオススメです
全粒穀物(Whole grains)とは、
- 玄米・全粒粉のパン・オートミールなどを含みます
- 精白米(普通の白ご飯)・白いパン・加糖シリアルなどがこれに該当しません
全粒穀物は消化されるのに時間がかかるので、食後血糖の抑制や体重増加抑制に寄与すると考えられています。ものによっては、ビタミン・ミネラル・繊維なども多く含む場合があります
蛋白質の適正摂取量は、
- 実ははっきりわかっていないものの当座の指標は、
- 1~1.5g/kg体重/日だったり、総カロリーの15~20%とされています
かつては蛋白尿があるケースでは摂取タンパク量を減らすことが推奨されていました。しかし、最近では0.8g/kg/日以下の蛋白摂取量は血糖・CVD・腎臓のどれにも利益はなく、栄養状態が悪くなるリスクを高めるということで推奨されなくなりました。ナッツは蛋白含有量が多く、低血糖の治療に使うと低血糖が長引く可能性が指摘されています
脂質の理想的な摂取量はまだわかっていません
- 脂質の量より質の方に着目するべきで、
- 飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の量を減らすべきと提案されています
地中海式食習慣は血糖と脂質の両方によいということが示されています
健康に悪い脂質とは、
- 飽和脂肪酸・トランス脂肪酸を通常指しています
- 飽和脂肪酸は炭素2重結合に水素を添加することで、長期間安定化する作用があります
- 高校の化学でcis-, trans-というのを習ったと思いますがtrans-の方が安定です
結果的に飽和脂肪酸もトランス脂肪酸融点が高く、食品の保存の観点からはメリットがあります。ただ、健康への懸念から2018年からアメリカでは規制されるようになったようです
健康に良い脂質とは、
- ポリ不飽和脂肪酸で、炭素2重結合が多い脂肪酸です
- コーン・ピーナッツ・オリーブ・キャノーラ・アボカド・ナッツ・魚の油が推奨されています
ただ、まだどの特定の脂質が特定の病態に有効なのかははっきりわかっておらず、今後の研究が待たれます
ビタミン・ミネラル・ハーブ・スパイスは、
- 明らかな欠乏がなければ推奨しないとされています
例えば糖尿病をメトホルミンで治療している場合は、ビタミンB12欠乏になりやすいです
貧血や末梢神経障害(指や足先のしびれ)等がある場合には、ビタミンB12測定がオススメです
βカロテンは肺がんと心血管疾患による死亡が増えるので使用しないように推奨されています
アルコール摂取は、
- 中等度までは長期の血糖コントロールに影響はないとされます
- 中等度とは1日あたり女性で1杯・男性で2杯までです
- 低血糖を起こしやすいのでこの点に注意して、適宜血糖測定をオススメします
インスリンやインスリン分泌促進薬を使用している場合は特に、低血糖が起きやすいのでその点に注意が必要です。大量に飲酒すると逆に高血糖になる場合もあります。飲酒する糖尿病患者さんはこの点について理解して頻繁に血糖測定をするように推奨されています
お酒1杯の定義は以前に記事で取り上げていますので、以下をご覧になってください
カロリーのない人工甘味料は、
- まだ結論は出ていないものの、喪失感と糖分を減らす目的では良いかもしれません
- ただ、ベストな飲み物が水であることには代わりはありません
[私見&極論] 結局のところ・・・
- 生きている限り未知の毒物を食べてしまっている可能性があるので、
- 食事は色々なものをまんべんなく摂りましょう、というのがボトムラインだと思います
- 資産のポートフォリオは分散させるのがオススメで、
- 儲かりそうだからといってFXや仮想通貨に全額つぎ込んではいけないというのと似たような話ですね
この類のお話は、以下の記事で少し議論を展開しているので、興味があればご覧になってください
まとめ:
さて、糖尿病患者さんでの食事についてのお話はいかがだったでしょうか。アメリカで多様な食生活を送っている人向けに書かれているので、日本人にとっては若干過剰な記載もあるかもしれません。ただ、日本人は白ご飯やうどんなど精白された穀物に囲まれて生活しているきらいはあるので、炭水化物を見直すというのは考えてみるべきことかもしれません。是非コンテンツを健康長寿にお役立てください!
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