フローサイトメーターの進化について詳しく解説します。原則、臨床検査技師の方・血液内科医師・医生物学的な研究をする研究者を、想定聴衆として書きます。皆様に役に立つ内容ではないものの、日本語での情報は不十分だと感じてます。今後の日本発のサイトメトリーの臨床・研究のスタンダードが上がることを祈念しながら、医学者ナカノが解説していきます
本日の結論:
- フローサイトメーターは世代によって出来ることが違います
- 詳細は個別のサイトメーターのスペック次第ですが、
- 大まかな世代がわかると、使える蛍光色素を把握しやすくなります
3Dナカノが比較的BDとCytekのサイトメーターを中心に使ってきたので、Beckman Coulter・Thermo Fisher・Miltenyi・Bio-Rad・Sonyなどの最近の機種には触っていません。また、それぞれのサイトメーターは各々異なった設計思想でレーザー・フィルターが構成されているので、似た機種だったら他の人の設計したパネルがそのまま使えるというわけにはいきません。この点は留意の上記事をご覧ください
では、順番に見ていきましょう
第1世代 (FACSCalibur 1995)
- Blue: FITC, PE, PerCP
- Red: APC
レーザーが2色だけの単純な構成で、まだタンデム色素は存在しませんでした。実際使ったことはないのですが、シース液と廃液がどちらもサイトメーターに内蔵だったので腰が悪い人には辛かったことと思います。この時点ではFSc/SScはともにHeightのみを記録していたので、ダブレット除去は出来ませんでした
ダブレット除去の記事は以下をご覧下さい
第2世代 (FACSCantoII 2004)
- Violet: Pacific blue, AmCyan
- Blue: FITC, PE, PerCP, PE/Cy7
- Red: APC, APC/Cy7
Violetレーザーが増えたのですが、効果的に使うための蛍光色素が未開発で2色だけでした。Cantoは床にシース液と廃液を床に配置するようになった初代です。Fluidicsを使用できるように(Start up)するのと、シャットダウンするのにそれぞれ5~10分前後の半自動の操作が必要でした。この世代からArea, Height, Widthが記録できるようになったので、ダブレット除去が出来るようになりました
第3世代 (Celesta)
- Violet: BV421, BV510, BV605, BV650, BV711, BV785
- Blue: FITC, PerCP-Cy5.5
- Yellow-Green: PE, PE-Texas Red, PE/Cy5, PE/Cy7
- Red: APC, APC/Cy7
Fortessaの方が先に発売されているのですが、現在主流の廉価版の機種を先に紹介します。大きく変わったのは、Violetレーザーの蛍光色素であるBrilliantVioletが開発されて、同時に染色・検出できる抗原の数が増えたことです
また、Yellow-Greenレーザーが、PE系列のタンデム色素をより効率的に励起するために導入されました。若干戸惑ったですが、PEとPEのタンデムがYellow-Greenレーザーの励起に変更になっただけです。FITCとPerCPのタンデムは従来通りBlueレーザーで励起されます。漏れ込みとコンペンセーションが格段減る効果があります
更に、フルイディクスの洗浄は各施設のプロトコールに任されるようになりました(Start upやShutdownの操作は存在しません・それ故同じサイトメーターを利用する人同士の信頼が益々大事になりました)
第4世代 (FACSFortessa 2009)
- BUV: BUV395, DAPI, BUV737
- Violet: BV421, BV510, BV605, BV650, BV711, BV785
- Blue: FITC, PerCP-Cy5.5
- Yellow-green: PE, PE-CF594, PE/Cy5, PE/Cy7
- Red: APC, AlexaFluor700, APC/Cy7
最も変わったのはUVレーザーが搭載されたことでしょう。これによって細胞質内のCa++の濃度をリアルタイムに測定できる、Indo-blueという色素が使えるようになりました。高額だったので、Cantoが廉価版として並行して販売されていました。3Dナカノがアメリカで見かけた機種は、7本のレーザーを搭載するものに魔改造されていました
第5世代 (FACSymphony 2018)
- BUV: BUV395, DAPI, BUV496, BUV563, BUV615, BUV661, BUV737, BUV805
- Violet: BV421, BV480, BV510, BV570, BV605, BV650, BV711, BV750, BV785
- Blue: FITC, BB630, PerCP, BB700, BB750, BB790
- Yellow-green: PE, PE-CF594, PE/Cy5, PE/Cy5.5, PE/Cy7
- Red: APC, AlexaFluor700, APC/Cy7
- NIR: AlexaFluor790, PromoFluor840
BUVとBlueレーザーで蛍光色素(BrilliantUVとBrilliantBlue等)の開発が進んで、より多くの標識が可能になりました。古典的なコンペンセーションで扱えるギリギリを攻めたサイトメーターで、今後主流になると思われるスペクトラルサイトメーター(Aurora等)の手前の魔改造サイトメーターです。高額なのでCelestaが廉価版として販売されています
第?世代 (Aurora 2017)
- UV: BUV395, LIVE/DEADBlue, BUV496, BUV563, BUV661, BUV737, BUV805
- Violet: BV421, SuperBright436, eFluor450, BUV480, BV510, PacificOrange, BV570, BV605, BV650, BV711, BV750, BV785
- Blue: BB515, FITC, SparkBlue550, PerCP, PerCP-Cy5.5, PerCP-eFluor710
- Yellow-green: cFluor YG584, PE-Dazzle594, PE-Alexa Fluor 610, PE-Cy5, PE-AlexaFluor700, PE-Cy7, PE-Fire810
- Red: APC, AlexaFluor647, SparkNIR685, APC-R700, APC-H7, APC-Fire810
PMTではなくAPDという比較的安価な光子の検出器をつかうことで、各々のレーザーで励起された蛍光色素固有のEmission(光の放射)を細かく区分して解析できるようにしました。漏れ込みの補正手法が数学的に進化していて、CompensationのかわりにUnmixingと呼んでいます
FITC・eGFP・BB515などの類似した蛍光色素を分別できる可能性を秘めています。現状ではお示ししている40色が、最も上手に蛍光色素と抗体を配置している組合せの1つの例です。Supplementを見ると、このパネルの設計にかかった労力がよく理解できると思います
実機を見るとCelestaとほぼ同じサイズで、コンパクトかつ見た目が地味なのに、とっても高機能なので驚くこと請け合いです
まとめ:
さて、サイトメーターの進化のお話をしました。4色で始まったものが約25年で10倍の40色に進化しました。Cytek社はAuroraのセルソーターも販売しているので、今後のフローサイトメトリーの進化からは目が離せません。読んでも不明な点は質問をお寄せください。自信を持って正しい結果を出せるように頑張っていきましょう!
コメント