レーザー光の照射と光の分離について詳細に解説します。原則、臨床検査技師の方・血液内科医師・医生物学的な研究をする研究者を、想定聴衆として書きます。皆様に役に立つ内容ではないものの、日本語での情報は不十分だと感じてます。今後の日本発のサイトメトリーの臨床・研究のスタンダードが上がることを祈念しながら、医学者ナカノが解説していきます
本日の結論:
- レーザーは波長が一定の光源で、蛍光色素を励起することができます
- 蛍光色素は励起されるとレーザー光より長波長よりの蛍光を発します
- これを様々なフィルターを使って分離することで、
- 一本のレーザーでたくさんの蛍光強度を測定することができます
レーザーは、
- 波長が一定(単一波長)の光源です
- 強力なエネルギーで、効率よく蛍光色素を励起(Excitation)できるという利点があります
- 一方で特に波長の短いUV(紫外線) laserはDNA・RNAなどの損傷が懸念されます
- ソートしてDNAやRNAの実験をするなら回避した方がいい場合もあります
短波長のUV・紫レーザーは400~800nmの幅広いチャンネルが取れる一方、長波長の赤レーザーは650~800nmと約1/3程度のチャンネル幅しか取れません。理由は以下の図をご覧ください
レーザーで励起された蛍光色素は
- 蛍光色素毎に、励起レーザーより長波長よりの、固有の波長の光を放出(Emission)します
- 励起に用いた単一波長のレーザー光と異なり、様々な波長の光(横幅の広がり)が放出されます
- 光の成分を分離して可能な限り個々の蛍光色素の標識量を正しく測定する必要があります
- 光の分離にはフィルターがずっと使われてきました
フィルターは3種類あって、
- Long pass filter:数値より長波長の光のみ透過して残りは反射する
- Short pass filter:数値より短波長の光のみ透過して残りは反射する
- Band pass filter:特定の範囲の波長の光のみを透過します
- 例:530/20の場合530を中心に±10nmの光のみ透過
通常はLong pass filter(LP)を使用して長波長側から光の要素が解析されることが多いです。一番大事なのはBand pass filter(BP)を把握して、使用する機材においてどの蛍光色素の組み合わせが妥当なのかを把握することです
以下は3Dナカノが使ったことがある、典型的なサイトメーターの紹介記事です
下図のとおり、細胞から発せられた蛍光は長波長側からLong passとBand pass filterで分けられていきます。LPの規格より長波長側の光(青紫寄り)は次のLPに渡されていきます。最後に残った成分はSide scatter(SSc)として細胞の複雑さを規定するパラメーターとして分析されます
オクタゴンやトライゴンは、
レーザー光をLong pass filterとBand pass filterで分けるための八角形と三角形の形をした光分離装置です。フィルターの先にPMTが配置されています。ユーザーがアクセスできるなら直接どのフィルターが入っているか、目視で確認できるし交換もできます(Cytekの製品は秘匿されてみられません)
コンペンセーションは、
蛍光色素から発せられた光が、別の色素を検出する目的のチャンネルに漏れこむ現象を補正するのに必要な操作です
たとえば、BV605だけで染色したサンプルを405nmの紫色レーザーで励起した場合での見え方をみてみましょう。BV605だけでなくBV650のチャンネルに漏れこんでしまっていることが見て取れると思います。コンペンセーションは単染色で染色陽性と陰性の細胞集団が、非染色チャンネルのすべてで中央値が等しくなるように演算される操作です。かなり奥の深い技術なので別記事で詳細に解説します
まとめ:
今日はレーザー光・蛍光の性質と、フィルターを使った分離についてお話をしました。特にBand pass filterの性質は使える色素に直結するので、自分が使うサイトメーターの情報は把握しておくことをオススメします。読んでも不明な点は質問をお寄せください。自信を持って正しい結果を出せるように頑張っていきましょう!
コメント