本当は怖い?コレステロール治療薬と筋肉の副作用まとめ [内科雑記]

筋力低下

今日は悪玉コレステロール治療薬であるスタチンの筋肉への副作用について、最近興味深い病気が報告されているのでご紹介します。一つご留意頂きたいのは、スタチンは心血管疾患の予防に極めて重要なお薬なので、安全に使えているのなら是非継続をオススメしたいということです。稀ながら重症な副作用がみられていますので、心当たりがありましたら主治医の先生にご相談の上、検査やお薬の調整を受けてください

目次

本日の結論:

  • スタチン使用中の人の10~25%のひとで筋肉の症状が出現します
    • 筋肉痛・筋力低下・だるさ・CK・肝機能(AST/ALT/LDH)・尿色の異常など
  • 中毒性スタチン筋症はスタチン開始後数週以内に出現し、
  • スタチンの中止のみで改善する、よくみられる病態です
  • 自己免疫性スタチン筋症はスタチン開始後数ヶ月~数年で出現し、
  • スタチンの中止のみでは改善しない(免疫抑制剤が必要)、稀な病気です
  • 何れにせよ重症になると入院が必要になりうるので副作用に気づいたら
  • 主治医の先生にご相談の上、早めに採血やお薬の調整を受けてください

本日参考にした論文は以下のものです


言葉の解説をします

スタチンとは、

  • 主にLDL(悪玉コレステロール)値を下げる働きのあるお薬(処方薬)です
  • 成分名が○○スタチンなのでスタチン系と呼ばれていて、以下の名称で処方されています
商品名後発医薬品名高用量中用量小用量
リピトール®アトルバスタチン(40~80mg)10~20mg
クレストール®ロスバスタチン20(~40)mg5~10mg
リポバス®シンバスタチン20(~40)mg10mg
メバロチン®プラバスタチン(40~80mg)10~20mg
ローコール®フルバスタチン60(~80)mg20~40mg
リバロ®ピタバスタチン2~4mg1mg
日本のスタチン一覧(カッコ内は日本では使用が許可されていない用量です)

高用量はより重症な高LDLコレステロール血症を治療するものですが、日本ではほとんど高用量で使われることはありません

スタチンによる筋肉の異常は、

  • スタチン中止の原因になる一番頻度の高い(80%以上)副作用で、
  • 中程度までの筋肉痛・筋力低下・だるさなどの症状が出現します
  • スタチン使用中の人の10~25%に出現するとされます
  • 主に筋肉の異常を示唆するCK(クレアチンキナーゼ)と、
  • AST/ALT/LDHなど肝臓のダメージを示唆する検査値の異常高値

となります

厳密には2種類あって、
  • 中毒性スタチン筋症と、
  • 自己免疫性スタチン筋症にわかれています

中毒性スタチン筋症とは、

  • 自然収束性スタチン筋症ともいわれ、
  • スタチンの終了とともに勝手に筋肉の症状がよくなるものです

自己免疫性スタチン筋症とは、

  • 抗HMGCR抗体陽性壊死性筋症ともいわれ、
  • スタチンを始めてから3年程度で発症する筋肉の病気で、
  • スタチンを終了しても筋肉の症状は良くなりません
  • スタチンをやめてもCKが上昇し続ける状況で強く疑われます

自己免疫性スタチン筋症とスタチン筋毒性の違いは、

中毒性スタチン筋症自己免疫性スタチン筋症
頻度高い(10~25%)(2-3人/10万)
スタチンの種類どれでもアトルバスタチンが多い
スタチン使用期間日~週単位年単位(平均36ヶ月)
筋力低下時々ほぼ必ず
筋肉痛しばしば時々
嚥下困難なし時々
CK値 (IU/L)様々通常1000以上 (平均10000)
抗HMGCR抗体なしあり(感度特異度よし)
スタチン中止で改善ありなし(免疫抑制剤が必要)

HMGCRとは

  • ヒドロキシメチルグルタリルCoA還元酵素という蛋白質で、
  • コレステロールの合成などを担当しています
  • スタチンはHMGCRを阻害してコレステロールを低下させています
  • 原因は不明ですが自己免疫性スタチン筋症ではHMGCRに対して
  • 自己抗体(攻撃を仕掛ける武器=抗HMGCR抗体)を作っていることが知られています
神経病や筋炎がある人はスタチンを使ってもよい?
  • 神経病や筋炎があるとスタチンの副作用が多くなる傾向は知られていますが、
    • 重症筋無力症・皮膚筋炎・多発性筋炎・封入体筋炎・筋萎縮性側索硬化症(ALS)・ミトコンドリア脳筋症(MELAS)
  • 絶対にスタチンを使用してはいけない(絶対的禁忌)のは、自己炎症性スタチン筋症だけです
筋肉が壊れているときに甲状腺機能を測定する理由は?
  • 筋肉の正しい働きに重要で、
  • 甲状腺機能が高すぎても(甲状腺機能亢進症)低すぎても(甲状腺機能低下症)、
  • 筋肉の症状やCK値の上昇を起こすことが知られています
  • 筋肉の症状が出たらTSH値の測定がオススメです

治療は重症度によって異なって、

軽症の中毒性スタチン筋症の場合、スタチン中止だけで良い場合もあります
しかし、横紋筋融解症になってしまってる場合は、入院で治療するほど重症になる場合もあります

軽度筋障害横紋筋融解症
CK値正常の10倍程度正常値の40倍以上
スタチン直ちにやめる直ちにやめる
対応直近の外来で再検査原則入院・点滴・ときに透析
  • スタチンを使用中に筋肉痛・筋力低下・尿が茶色くなったなどの症状が出た場合には、
  • 主治医の先生にご相談の上で、
  • 早めに採血やお薬の調整をしてもらうことをオススメします

中毒性スタチン筋症の場合はスタチンをやめて症状が改善したあとに、別のスタチンを試してうまくいく場合があります。自己免疫性スタチン筋症の場合はスタチンは二度と使ってはいけません

横紋筋融解症とは、

  • 熱中症・外傷・薬剤など、様々な原因で筋肉が大量に壊れる病気です
  • 筋肉痛・筋力低下・コーラのような濃い色の尿があるときに疑われます
  • 筋肉が大量に壊れてその成分が腎臓に詰まって腎障害を引き起こしたり、
  • 筋肉細胞内のカリウムという塩分が放出されることで、不整脈を起こしたりします
  • 重症な場合一時的に血液透析が必要になったり、心停止する恐れがあります
  • 原則入院の上、点滴をして治療に当たる必要があります

自己免疫性スタチン筋症を発症している場合には、

  • ステロイドや免疫を抑えるお薬(免疫抑制剤)を使用する必要があり、
  • リウマチ内科など専門家に治療が任されることになると思います
  • スタチンは二度と使ってはいけません

まとめ:

本日のスタチンと筋肉に出る副作用のお話はいかがだったでしょうか。ここ10年くらいでわかるようになってきた内容が多く、若干馴染みの薄い内容もあるかもしれません。LDL(悪玉コレステロール)治療薬のスタチンは極めて有効性が高いお薬です。ただ、稀には重症な副作用がでるので内服中は筋肉や尿の色に気をつけて、是非コンテンツを健康長寿にお役立てください!

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この記事を書いた人

卒後15〜20年の病院内科医のナカノです。資格は医師・総合内科専門医・リウマチ専門医・アレルギー専門医(内科)・博士(医学)です。現在はアメリカのワシントンDC郊外の研究所で研究者として働いてます。
暮らしに役立つ知恵や皆さんの健康に寄与する情報を発信していければと考えています。

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