糖尿病の治療薬の使い分け (ADA2023)[糖尿病]

内科医の3Dナカノが糖尿病の治療薬の使い分けについて解説します。アメリカ糖尿病学会の年末年始恒例イベントの、ガイドライン更新時期がやってきました。内科医3Dナカノは、成人の2型糖尿病(1型糖尿病・妊娠糖尿病・小児・日本で珍しい病気に合併した糖尿病は除く)についてシリーズで取り上げますので、一緒に勉強していってください

目次

本日の結論:

  • 心血管疾患のリスクが高ければ、GLP-1作動薬かSGLT2阻害薬(+メトホルミン)
  • 腎臓病うっ血性心不全があるなら、SGLT2阻害薬
  • 体重を減らしたい場合には、GLP-1作動薬
  • 値段が重要なら、メトホルミン・SU剤など
  • メトホルミンは、安価で副作用が出尽くしている薬で、
  • 糖尿病患者さんの心血管疾患と死亡のリスクを減らします
  • SGLT2阻害薬は、体重減少・腎臓病・心血管疾患などに対して明確な効果がある内服薬です
  • GLP1作動薬は、体重減少・心血管疾患に対して明確な有効性がある注射薬です
  • SGLT2阻害薬とGLP1作動薬は、高価で歴史が浅く長期の副作用が未解明です

結論のもとになったADA推奨は次のとおりです

9.5 インスリン開始時は禁忌がなければメトホルミンを継続する

9.6 治療失敗を防ぐのに早期の多剤併用療法は検討しても良い

9.7 体重減少・高血糖の症状あり・HbA1c10%以上・随時血糖300mg/dL以上の場合、早期のインスリン導入を検討する必要がある

9.8 治療の決定には心血管や腎臓への効果・低血糖リスク・体重への影響・値段・投与経路・副作用のリスクなどについて勘案して個別化する

9.9 動脈硬化性血管病変・腎臓病・心不全のある糖尿病患者では、SGLT2阻害薬とGLP1作動薬が包括的な心血管リスクの抑制のために推奨される

9.10 2型糖尿病ではGLP1作動薬のほうがインスリンより好ましい

9.11 インスリン使用中はGLP1作動薬を組み合わせると、効果の増強・治療耐用性・体重・低血糖などの観点から有益なので推奨する

9.12 治療目標を満たしていない状況では治療強化の推奨を見送るべきでない

9.13 治療内容と内服状況は3~6ヶ月毎に再評価されるべき

9.14 基礎インスリンは過剰になりやすいので、0.5単位/kg/日以上で使用する場合注意する(血糖の就寝時・早朝・食前後較差、自覚無自覚を問わず低血糖の有無)

米国糖尿病学会推奨2023

言葉の解説をします

糖尿病薬の総論(使い分け方)

持病(基礎疾患)毎に向いている糖尿病薬は、

基礎疾患糖尿病薬
心血管疾患または高リスクGLP-1作動薬かSGLT2阻害薬(メトホルミン)
うっ血性心不全SGLT2阻害薬
腎臓病eGFR20以上ならSGLT2阻害薬を開始し透析・腎移植まで続ける
SGLT2阻害薬が使えないならGLP-1作動薬
基礎疾患と糖尿病薬の組み合わせ

心血管疾患のリスクは別の記事で詳しく解説しているのでそちらをご覧ください

うっ血性心不全は、心臓の血管(冠動脈)が狭くなったり詰まったりすることなどが原因で、肺や全身(主に足)に水が溜まってしまう病気です。息苦しくなったり足がむくんだりする症状がでます
腎臓病の評価法については別の記事で詳しく解説しているのでそちらをご覧ください

血糖降下作用別に糖尿病薬をみると、

血糖降下作用糖尿病薬
特高GLP-1(トルリシティ®・オゼンピック®・リベルサス®・マンジャロ®)
インスリン
経口多剤併用
注射多剤併用(GLP-1+インスリン)
GLP-1(バイエッタ®・ビデュリオン®・ビクトーザ®・リキスミア®)
メトホルミン
SGLT2阻害薬
SU剤・チアゾリジン
DPP-4阻害薬

体重減少作用別では、

体重減少作用糖尿病薬
特高GLP-1(オゼンピック®・リベルサス®・マンジャロ®)
GLP-1(トルリシティ®・ビクトーザ®)
GLP-1(バイエッタ®・ビデュリオン®・リキスミア®)
SGLT2阻害薬
無しDPP-4阻害薬・メトホルミン
体重増SU剤・チアゾリジン・インスリン

GLP-1作動薬とSGLT2阻害薬で特に体重減少効果が認められています

価格別では、

価格糖尿病薬
メトホルミン・チアゾリジン・SU剤
SGLT2阻害薬・GLP-1作動薬・DPP-4阻害薬・インスリン

値段と効果でそれぞれの血糖降下薬を分けると、

効果高効果低・体重増
値段安メトホルミンチアゾリジン・SU剤
値段高SGLT2阻害薬・GLP-1作動薬・インスリンDPP-4阻害薬

糖尿病薬の各論

メトホルミンは、

  • 安価で安全なことから長いこと使われてきた糖尿病薬で、
  • 心血管疾患と死亡のリスクを減らす作用があります
  • メトグルコ®(メトホルミン)が日本で使われています(カッコ内は後発医薬品)

メトホルミンの利点は、

  • 安いこと(薬価¥900~1800/月(の3割負担など))、
  • eGFR30以上(腎臓病が重症でない)なら安全に使用できること、
  • 心血管疾患と死亡のリスクを減らす作用があることです
  • 60年以上使われているので副作用が出尽くしているといえましょう

メトホルミンの欠点は、

  • 副作用はお腹が膨れた感覚(腹部膨満感)・下痢などの腹部症状が中心です
  • 脱水などで腎機能が悪くなったときに、代謝性アシドーシス(血液のpH異常)を起こす場合があります
  • またビタミンB12欠乏による神経症がでることが知られています
  • 内服中は定期的にビタミンB12を測定することが推奨されています

SGLT2阻害薬は、

  • 2014年に使えるようになった糖尿病薬で、
  • 腎臓から糖を積極的に排出することで効果を発揮します
  • 体重減少・腎臓病・心血管疾患などに対して明確なメリットがある内服薬です
  • フォシーガ®・カナグル®・ジャディアンス®・スーグラ®・ルセフィ®・デベルザ®が日本で使われています

SGLT2阻害薬の利点は、

  • 血糖降下作用が中~高でありながら内服薬であること、
  • 体重減少・腎臓病・心血管疾患などに対して明確な有効性があることです

SGLT2阻害薬の欠点は、

  • やや高額(薬価¥3600-9700/月(の3割負担など))で、
  • 副作用は尿路感染症脱水などです
  • 歴史が浅いので長期的な副作用がまだ十分解明されていません

GLP-1作動薬は、

  • 2010年に使えるようになった糖尿病薬で、
  • 血糖が高いときだけ内因性のインスリンを分泌させる作用がある薬です
  • バイエッタ®・ビデュリオン®・ビクトーザ®・リキスミア®・トルリシティ®・オゼンピック®・リベルサス®・マンジャロ®が日本で使われています

GLP-1作動薬の利点は、

  • 血糖降下作用が高い一方で低血糖を起こしにくいこと、
  • 体重減少・心血管疾患に対して明確な有効性があることです(腎臓病は検証中)

GLP-1作動薬の欠点は、

  • 高額(薬価¥6000-18000/月(の3割負担など))で、
  • 主に注射剤(リベルサス®だけ内服)なので使用するハードルが高めです
  • 歴史が浅いので長期的な副作用がまだ十分解明されていません

チアゾリジンは、

  • 20年くらいの歴史がある日本発の薬で、
  • アクトス®(ピオグリタゾン)が日本で使われています(カッコ内は後発医薬品名)
  • PPARγ(ピーパーガンマ)という分子に作用する薬で、糖尿病以外の使い道が模索されています

チアゾリジンの利点は、

  • 安価(薬価¥360-2400/月(の3割負担など))で、
  • 脂肪肝(NASH)に有効かつ血糖降下作用が高いことです

チアゾリジンの欠点は、

  • 心不全やむくみを悪化させるおそれがあること(心臓病・腎臓病で使いにくい)と、
  • 体重増加作用があることです

SU剤は、

  • スルホニルウレアの略で、
  • アマリール®(グリメピリド)・オイグルコン®(グリベンクラミド)・グリミクロン®(グリクラジド)などが日本で使われています(カッコ内は後発医薬品名)

SU剤の利点は、

  • 非常に安価(薬価¥300-1500/月(の3割負担など))で、
  • 血糖降下作用が高いことです
  • 70年以上使われているので副作用が出尽くしているといえましょう

SU剤の欠点は、

  • 体重増加作用と低血糖を引き起こしやすいことです

DPP-4阻害薬は、

  • 2010年頃から使われている薬で、
  • グラクティブ®・ジャヌビア®・エクア®・オングリザ®・ネシーナ®・トラゼンタ®・テネリア®・ザファテック®・スイニー®・マリゼブ®などが日本で使われています

DPP-4阻害薬の利点は、

  • かつて主流だった食事のたびに内服する薬より、飲む回数が少なくなったことです

DPP-4阻害薬の欠点は、

  • 値段がやや高く(薬価¥1500-5300/月(の3割負担など))で、
  • 血糖降下作用が控えめで心血管や腎臓病への効果が見られないことです

まとめ:

糖尿病薬について今回はまとめました。SGLT2阻害薬とGLP1作動薬は、心臓や腎臓への効果のデータが出始めたのは知っていたのですが、ガイドラインが書き換わるのにそれほど時間がかからなかったことに衝撃を受けています。引き続き発がん・死亡・妊娠や授乳などのような長期でみないとわからないような副作用に注意しながら賢くお薬を選べるように勉強を続けたいと思います。最近アップデートされた情報をコンテンツにしていきます。コンテンツを是非健康長寿にお役立てください!

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この記事を書いた人

卒後15〜20年の病院内科医のナカノです。資格は医師・総合内科専門医・リウマチ専門医・アレルギー専門医(内科)・博士(医学)です。現在はアメリカのワシントンDC郊外の研究所で研究者として働いてます。
暮らしに役立つ知恵や皆さんの健康に寄与する情報を発信していければと考えています。

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