糖尿病神経障害 (ADA2023)[糖尿病]

神経症

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内科医の3Dナカノが糖尿病の神経障害について解説します。アメリカ糖尿病学会の年末年始恒例イベントの、ガイドライン更新時期がやってきました。内科医3Dナカノは、成人の2型糖尿病(1型糖尿病・妊娠糖尿病・小児・日本で珍しい病気に合併した糖尿病は除く)についてシリーズで取り上げますので、一緒に勉強していってください

目次

本日の結論:

  • 糖尿病神経障害は、糖尿病が原因で神経に障害が出る病気です
  • 自覚症状があるのは約半分程度とされているので、
  • 2型糖尿病発症時と年1回神経の診察を受けて頂きたい病態です
  • 検査は痛み・温度・振動・細い繊維を足先で感じるかというものがメインです
  • 自律神経に異常が出ると循環器・胃腸・排尿・汗などの問題もおこりえます
  • 治療が難しいものが多いですが、ジリジリする痛みはある程度治療可能です

結論のもとになったADA推奨は次のとおりです

  • 12.15 すべての2型糖尿病患者は糖尿病診断時と年1回、末梢神経障害の評価を受けるべき
  • 12.16 小径線維(small fiber)の評価に温痛覚(ピンプリック)を、大径線維(large fiber)の評価に128Hzの音叉を使う。すべての糖尿病患者は年1回10g モノフィラメントで足潰瘍や足切断のリスクを評価されるべき
  • 12.17 自律神経障害(起立時のだるさ・失神・四肢の皮膚の乾燥とひび割れ・安静時の頻脈について)糖尿病診断時と年1回評価を受けるべき
  • 12.18 血糖・血圧・脂質を改善させてこれ以上の神経障害を防ぐ
  • 12.19 痛みと自律神経障害について評価し、QOLを高めるべく治療をする
  • 12.20 ガバペンチン・SNRI・三環系抗うつ薬・Naチャンネルブロッカーが神経障害の痛みには推奨される。痛みが取れない場合神経内科・疼痛緩和ケア科に紹介する
米国糖尿病学会2023ガイドライン

言葉の解説をします

糖尿病神経障害は、

  • 糖尿病が原因で糖尿病患者さんの神経に障害が出る病気です
  • 自覚症状があるのは約半分程度とされているので、
  • 2型糖尿病発症時と年1回神経の診察を受けて頂きたい病態です
  • たまたま関連のない神経の病気を一緒に発症している可能性もある点が難しい点です
糖尿病神経障害と紛らわしいのは、
  • 毒物(アルコールなど)
  • 薬剤性(がん化学療法など)
  • ビタミンB12欠乏
  • 甲状腺機能低下症
  • 腎臓病
  • 悪性腫瘍(多発性骨髄腫・気管支腫瘍)
  • 感染症(HIVなど)
  • 慢性炎症性脱髄性疾患
  • 遺伝性ニューロパチー
  • 血管炎
    と記載があります

糖尿病神経障害の検査は、

小径線維(small fiber)温痛覚
大径線維(large fiber)128Hzの音叉・下肢の腱反射・10g モノフィラメント
体を防御する感覚10g モノフィラメント

で評価するように記載があります
障害される神経の太さによって、症状と検査方法が違うということです

小径線維の検査は、

  • 温覚と痛覚に分かれていて、
  • 温覚は音叉の金属の冷たさを足先で感じるかどうか、
  • 痛覚は竹串のような先の尖ったもので足先を触って感じるかどうか、

で確認します

大径線維の検査は、

  • 128Hzの音叉(ドの音)を内くるぶしにあてて振動を感じなくなるまでの時間を測定します
  • 通常は10秒程度は振動を検知できるとされています
  • ハンマーを使ったアキレス腱反射や、次に説明するモノフィラメントも使われます
音叉の例
神経診察用のハンマー

体を防御する感覚の喪失(loss of protective sensation)は、

  • 10g モノフィラメントという専用のプラスチック繊維で評価します
  • モノフィラメントが90度曲がる位の強さで足先を触って、
  • 左右どちらを触ったか答えてもらうかたちで検査します
  • これがわからないと足潰瘍・足切断のリスクであるとされています
10g-モノフィラメントと足に当てる方法
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糖尿病神経障害の治療は、

  • 根本的に治すものはまだ見つかっていません
  • 血糖値がよくなると進行が抑えられるとされますが、改善はしないようです
  • 血圧・脂質などがよくなると進行が抑えられるとされます

糖尿病神経障害のチクチクする痛みは、

  • 神経の興奮を抑える薬で改善する可能性があります
  • 不眠と抑うつが合併することも多く、合わせて治療するのが望ましいです
  • プレガバリン・SNRI・三環系抗うつ薬は同等の効果があるという報告があります

プレガバリン(リリカ®)は、

  • 日本でも神経が原因の痛み(神経障害性疼痛)に使えるお薬です
  • 副作用はめまい・眠気・吐き気などです
  • 寝る前に25mgなど少量から使用するとあまり副作用を起こさないで使える場合があります
リリカ®

SNRIは、

  • セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬といわれるお薬で、
  • 日本で糖尿病神経障害に使えるのはデュロキセチン(サインバルタ®)一択です
  • 抗うつ薬として精神科で頻繁に使われているタイプの薬です

セロトニン症候群や悪性症候群という精神科の薬に比較的特有の副作用があって、3Dナカノは自分で処方する必要に迫られたことがありません

サインバルタ®

三環系抗うつ薬は、

  • 抗うつ薬として精神科で頻繁に使われているタイプの薬です
  • 日本で神経障害性疼痛に使えるのはアミトリプチリン(トリプタノール®)です

これもセロトニン症候群や悪性症候群が起きうるので、3Dナカノは自分では処方していません

トリプタノール®

トラマドールは、

  • 弱オピオイド(麻薬処方箋のいらない弱い麻薬)で、咳止め薬の仲間です
  • トラマドールとアセトアミノフェンを組み合わせたトラムセット®が使いやすいです

めまい・眠気・吐き気などリリカと似た副作用が出る場合があって、3Dナカノは寝る前から始めてもらう作戦をしばしばオススメしています

トラムセット®

糖尿病自律神経障害は、

2型糖尿病のすべての患者さんで診断時と年1回の評価をするべきと推奨されています

  • 安静時頻脈:運動していないのに脈が速い
  • 起立性低血圧:立ち上がったときにだるい・力が入らない・意識を失う
  • 胃腸障害:下痢・便秘・胃腸のムカムカ
  • 勃起障害
  • 神経因性膀胱
  • 発汗異常(増減どちらも)

などが知られています
安静時頻脈や起立性低血圧などの自律神経障害を、心血管性自律神経障害と呼んでいます

心血管性自律神経障害とは、

  • Cardiovascular autonomic neuropathy(CAN)の訳で、
  • 心臓と血管に起きる自律神経障害を指したもので、
  • 早期には深呼吸時の脈拍の変動が減るだけで無症状です
  • 進行すると安静時頻脈(100回/分以上)や
  • 起立性低血圧(収縮期・拡張期血圧が起立するとそれぞれ20, 10mmHg以上下がる)

などの症状が出ることを指しています

起立性低血圧の治療は、
  • 難しい(Challenging)と考えられているようです
  • 目標は起立時に症状がでないようにすることです

適切な水分・塩分量を守る・低血圧を助長する薬をやめる・脚や腹部に圧迫具を巻く、などができることとして記載されています

胃腸の神経障害は、

  • 胃腸のどこにでも障害がおこりえて、
  • 典型的には食道や胃の動き・下痢・便秘・便漏れなどが症状として知られています

診断には胃排出シンチグラフィーが有効のようですが、日本ではまだ先進医療として一部の医療機関でしか行われていない検査法です

胃腸の神経障害の治療は、
  • 難しい(Challenging)と考えられているようです
  • 低繊維・低脂肪の液状食を小分けにするのは有効のようです
  • 消化管の動きに良くない薬をやめるのも一つの方法です
    • オピオイド(麻薬)・抗コリン薬・三環系抗うつ薬・GLP-1・(プラムリンチド)

メトクロプラミド(プリンペラン®)は吐き気止めですが、12週以上使用するとパーキンソン病のような症状(錐体外路症状)を認めるため、あまり勧められないとの記載があります

泌尿生殖器の神経障害は、

夜尿症・頻尿・突然の尿意・尿の出が悪いなどの自覚症状が出る可能性があります。また、男性で勃起不全や射精不全・女性で性欲減退・性交痛がでるという記載もあります。尿路感染を繰り返す場合には膀胱機能の検査が推奨されています

勃起不全の治療は、

PDE5阻害薬(バイアグラ®)・プロスタグランジンの注射か注入・装置の使用など
が推奨では挙げられていますが、プロスタグランジンは日本では保険適応になっていません

まとめ:

糖尿病神経障害について米国糖尿病学会の推奨をまとめました。かなり力を入れて執筆されているため、若干専門性が高い内容が多かったですね。神経がやられてしまうと、痛みを感じなくなり自分の体を守る力が低下してしまいます。糖尿病と診断されたら定期的に神経診察を受けてください。受診是非コンテンツを健康長寿にお役立てください!

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この記事を書いた人

卒後15〜20年の病院内科医のナカノです。資格は医師・総合内科専門医・リウマチ専門医・アレルギー専門医(内科)・博士(医学)です。現在はアメリカのワシントンDC郊外の研究所で研究者として働いてます。
暮らしに役立つ知恵や皆さんの健康に寄与する情報を発信していければと考えています。

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